ホソジュンのウマなりトーク
第36回 不動心・安藤勝己騎手の引退~理想とする精神の領域~
2013.03.15
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競馬界にとって2月3月のこの時期は、勇退・引退、そして新たなスタートを切る人々の合否の発表もなされ、別れと出逢い、終止符とスタートと、相反するものが入り混じる特別なシーズン。
そんな中、最も大きな話題と言えば安藤勝己騎手の引退でしょう。地方から中央への門戸を開き、G1勝利22勝、JRA通算勝利数は1111。
偉大な記録はもちろんのこと、物事に動じない達観した精神力や、大舞台で魅せた人馬一体の手綱捌きは、今もなお多くの方の心に深く刻まれ生き続けていることでしょう。
そしてそれはファンのみならず同僚の騎手たちにとっても言えることで、「G1の舞台であろうがダービーであろうが、普段と変わらない雰囲気で挑め、なおかつレース後も何事もなかったかのような空気を醸し出す。安藤さんを見ていると、自分が小さく思える」と、勝負の世界で問われる不動心の塊に、尊敬の眼差しがそそがれるほどです。
またその空気がそのまま言葉となって表れる安藤さんのコメントには、誰もが驚きと面白みを感じられてきたことでしょう。
私自身、1番印象に残っているのが、人気薄で制した重賞勝利騎手インタビュー。いつも通り淡々とした表情で、「いや~正直、勝てると思って乗っていなかったから、自分が1番ビックリしている」と。
そのコメントに、(え?勝負師たるものは皆、勝とうと思って乗っているのでは?いいのかなぁ?そんな発言をしちゃって...)と浅はかにも心配を。
しかしよくよく考えてみれば、勝とうと思う意識が強ければ強いほど、周りが見えなくなり、見失ってしまうことが多いようにも。逆を言えば平常心での騎乗だからこそ、道中の視界が広がり、よりレースが見えるということなのでしょう。
今まで聞いたこともないようなこのコメントは、実は勝負師の誰しもが理想とする精神の領域なのかも...。
特に現在騎手を取り巻く環境は、乗り代わりがあたりまえのように行われ、騎手の多くは、その恐怖とも戦わなければなりません。人気馬での騎乗ならば、その重圧はさらに重くのしかかってくることでしょう。
勝負の世界、追い込まれることが良い方向へと導かれることもありますが、まだまだ経験値の少ない若手騎手にとっては、何としてでも結果を残さなければいけないという思いに駆られ、冷静さを失うことや、逆に思いきりのよさが消されてしまうことも...。
もちろん安藤さんご自身も、「若い頃は今と違ってかなり尖っていた」と話されるように、様々な経験をされて行き着いたものなのだと感じますが、だからこそ安藤さんが勝負服を着て検量室に存在するだけで、周囲の騎手たちにとっては、語らずとも自分自身の精神状態を問われ、学ぶことが多かったのではないでしょうか。
そう考えると、安藤勝己騎手がターフから消えてしまうことも残念ですが、検量室から姿が失われることも騎手の世界にとっては非常に残念であり、もったいないと感じるのは私だけではない気がします。
今年も競馬学校を卒業したばかりの新人騎手4人がデビューを迎えるわけですが、その道は決して平坦ではなく、山あり谷あり、嵐ありの過酷なものとなるでしょう。そしてその苦しい局面で問われるのが、メンタル面。物事をどう捉えるか?どう考えるか?そしてどう対処していくか?
弱冠18歳19歳の若者にとっては難しい問題だと感じますが、心の持ち方一つで大きく道が分かれてしまうゆえ、騎手人生にとって非常に大きなポイントだと感じます。
そしてそんな時、安藤勝己さんとは言わないものの、安藤さんのような大人が周囲にいて下さったらどれほど心強く、道に迷いすぎないことか...。
今年デビューをする新人君たちは是非ともそういった方に出逢ってほしいなぁ、気づいてほしいなぁと、自分自身の経験も踏まえて切に思い、願います。
それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
ホソジュンでしたぁ。
そんな中、最も大きな話題と言えば安藤勝己騎手の引退でしょう。地方から中央への門戸を開き、G1勝利22勝、JRA通算勝利数は1111。
偉大な記録はもちろんのこと、物事に動じない達観した精神力や、大舞台で魅せた人馬一体の手綱捌きは、今もなお多くの方の心に深く刻まれ生き続けていることでしょう。
そしてそれはファンのみならず同僚の騎手たちにとっても言えることで、「G1の舞台であろうがダービーであろうが、普段と変わらない雰囲気で挑め、なおかつレース後も何事もなかったかのような空気を醸し出す。安藤さんを見ていると、自分が小さく思える」と、勝負の世界で問われる不動心の塊に、尊敬の眼差しがそそがれるほどです。
またその空気がそのまま言葉となって表れる安藤さんのコメントには、誰もが驚きと面白みを感じられてきたことでしょう。
私自身、1番印象に残っているのが、人気薄で制した重賞勝利騎手インタビュー。いつも通り淡々とした表情で、「いや~正直、勝てると思って乗っていなかったから、自分が1番ビックリしている」と。
そのコメントに、(え?勝負師たるものは皆、勝とうと思って乗っているのでは?いいのかなぁ?そんな発言をしちゃって...)と浅はかにも心配を。
しかしよくよく考えてみれば、勝とうと思う意識が強ければ強いほど、周りが見えなくなり、見失ってしまうことが多いようにも。逆を言えば平常心での騎乗だからこそ、道中の視界が広がり、よりレースが見えるということなのでしょう。
今まで聞いたこともないようなこのコメントは、実は勝負師の誰しもが理想とする精神の領域なのかも...。
特に現在騎手を取り巻く環境は、乗り代わりがあたりまえのように行われ、騎手の多くは、その恐怖とも戦わなければなりません。人気馬での騎乗ならば、その重圧はさらに重くのしかかってくることでしょう。
勝負の世界、追い込まれることが良い方向へと導かれることもありますが、まだまだ経験値の少ない若手騎手にとっては、何としてでも結果を残さなければいけないという思いに駆られ、冷静さを失うことや、逆に思いきりのよさが消されてしまうことも...。
もちろん安藤さんご自身も、「若い頃は今と違ってかなり尖っていた」と話されるように、様々な経験をされて行き着いたものなのだと感じますが、だからこそ安藤さんが勝負服を着て検量室に存在するだけで、周囲の騎手たちにとっては、語らずとも自分自身の精神状態を問われ、学ぶことが多かったのではないでしょうか。
そう考えると、安藤勝己騎手がターフから消えてしまうことも残念ですが、検量室から姿が失われることも騎手の世界にとっては非常に残念であり、もったいないと感じるのは私だけではない気がします。
今年も競馬学校を卒業したばかりの新人騎手4人がデビューを迎えるわけですが、その道は決して平坦ではなく、山あり谷あり、嵐ありの過酷なものとなるでしょう。そしてその苦しい局面で問われるのが、メンタル面。物事をどう捉えるか?どう考えるか?そしてどう対処していくか?
弱冠18歳19歳の若者にとっては難しい問題だと感じますが、心の持ち方一つで大きく道が分かれてしまうゆえ、騎手人生にとって非常に大きなポイントだと感じます。
そしてそんな時、安藤勝己さんとは言わないものの、安藤さんのような大人が周囲にいて下さったらどれほど心強く、道に迷いすぎないことか...。
今年デビューをする新人君たちは是非ともそういった方に出逢ってほしいなぁ、気づいてほしいなぁと、自分自身の経験も踏まえて切に思い、願います。
それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
ホソジュンでしたぁ。