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第39回 3つのGⅠ 涙と美学の勝利

2013.06.19
 東京競馬場での5週連続G1も開幕し、この原稿を書いている現時点ではオークスまでが行われました。
 レース終了後のパドックでは、勝利騎手を招き、レース映像と共に回顧を行っていますが、NHKマイルの柴田大知騎手に始まり、ヴィクトリアマイルでの内田博幸騎手、そしてオークスでの武幸四郎騎手と、それぞれに感極まるものがありました。

 まずは騎手生活17年目にしての平地でのG1制覇を成し遂げた柴田大知騎手。
 レース後のとめどなく流れる涙には、多くの方がもらい泣きをしたことでしょう。私は柴田騎手と競馬学校の同期生。それだけに大知君の真面目な性格はもちろんのこと、外の世界からこの道に足を踏み入れたゆえの苦悩や、騎乗馬の集まらない時期の厳しさ、ジョッキーとして続けていくべきか否か迷う日々の苦しみは十二分に理解できるものでしたし、私では耐えられないような過酷な状況を幾度も乗り越え、そしてひた向きかつ誠実に生きてきたことも...。

 大知騎手自身でも止められないであろうあの溢れだす涙は、そのモガキ苦しんだ日々が体と脳に染み込んでいた証であり、あの涙によって全てが流されているようにも思えました。またそんな大知君の姿を、ファンの方々は知っていたのですね...。

 レース後のパドックには、いつも以上に多くのお客様が残り、大きな拍手と歓声で大知君を待っていました。

 また涙と言えば、オークスをメイショウマンボで制した武幸四郎騎手。レース直後は幸四郎君らしくヒョウヒョウとした雰囲気でしたが、自分を支えて下さった松本オーナーの涙に、涙するシーンが...。幸四郎騎手にとっては7年振りのG1制覇となったわけですが、この間、プライベートにおける事件や骨折もあり、厳しい言い方かもしれませんが、周囲から干されてもおかしくない状況を自らが招いている部分も少しはあったように思えます。しかしそんな厳しい状況においても、松本オーナーは手を差し伸べ、騎乗馬を与え、幸四郎騎手を信じてこられたように思えます。

 あのレース後のオーナーの涙には、お人柄と男気を感じるものでしたし、人は人によって救われ、活かされるものなのだなぁ~と美学的なものを教えられた勝利でもありました。

 そして美学と言えば、ヴィクトリアマイルを制したヴィルシーナ陣営も美しかったぁ。まず、内田騎手が発した言葉は、「オーナーや調教師、陣営の為にも勝ちたかった」と、いうものでした。これまでG1で4度の2着。しかしそのレース後、オーナーや調教師が口にする言葉は、いつも、「よく頑張ってくれた。次も頼みますね」というものだったと。

 勝ち負けが問われる勝負の世界において、騎手は時として、ベストを尽くしたと思える騎乗においても批難され、とがめられることも多い職業。だからこそ余計に、いつも自分を信じ温かく迎えてくれる優しさが痛いほど心に届き、何としてでもオーナーや陣営の為に勝ちたい、喜んでもらいたいと思う気持ちが強く沸いてくるのでしょう。

 ゴール前、明らかに勢いではホエールキャプチャの方が勝っていたように思える中、渾身の力を振り絞って勝利を獲得したその背景には、ヴィルシーナの頑張りと共に、内田騎手のそんな思いが、もう一押しさせたようにも感じました。

 結果、東京競馬5週連続G1・3つを終えた時点で勝利馬に共通して言えたことは、人が人を思う優しさや信じる心からうまれる、人間同士の温かな思い。その気持ちが、大輪を咲かせているようにも...。

 やはり競馬の世界におけるトップのレース、G1。誰もが手にしたい頂だからこそ、その山頂に辿り着くまでの過程こそが重要な基盤となり、携わる人々の絆の深さがあってこそ、素晴しい景色を見ることができ、その価値を分かち合え、G1の喜びを知り得るのでしょうね。

 それではまた来月お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
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