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第40回 内田博幸騎手に学ぶ~馬はロボットではない、心を持った生き物~

2013.07.25
 2013年の日本ダービーも終わり、早くも翌週から2歳戦もスタート。そして函館競馬も開幕し、春のGⅠを締めくくる宝塚記念も終了。いよいよ本格的に夏の訪れを感じるシーズンとなりました。
 気づけば今年も半年が過ぎたのですね...。 上半期、フェブラリーSから宝塚記念に至るまでのGⅠ戦線を振り返ると、岩田康誠騎手と内田博幸騎手が共に2勝を挙げる結果に。そして騎手のリーディング争いでは、そのお二人に迫る勢いで3月デビューの戸崎圭太騎手が食い込む状況と、地方競馬出身騎手の活躍が非常に目立ちました。

 と同時に活躍の背景には、その勝利を裏付けるきちんとした根拠も垣間見れるものだったように思えます。その中でも特に印象的だったのが、宝塚記念。

 春の天皇賞での敗因から、馬の走る気を取り戻したいと自ら調教を志願し、2週に渡って栗東に滞在し、愛馬とコンタクトをとってきた内田騎手。
 「要求しすぎない」ことをポイントに、馬の心と向き合い、最終追いきりでは耳を絞ったり、ブレーキをかけることなく、自発的に併走馬を抜き去る内容でした。
 鞍上が、「行きなさい、抜きなさい」と指示をして急かすのではなく、ゴールドシップ自身が自らの意志で抜き去る形となり、ブレーキをかけ躊躇しながら併走馬を抜き去った天皇賞時の最終追いきりとは、明らかに気持ちの面での違いを見せていました。
 そしてその気持ちのベクトルがしっかりとレースに向かっていたかのように思われるスタート後の様子。ゲートを出た後、内田騎手が前目のポジションへ行こうと合図をするとすぐさま馬も反応し、反抗することなく指示を受け入れ、その後はスッと対応。
 まさにあのスタート後の数100メートルが、2週にかけてコンタクトをとってきた愛馬との意志疎通の表れであり、人と馬が心を通わせた瞬間だったのではないでしょうか。

 そしてこの勝利で思い起こされるのが、昨年の岩田騎手&ディープブリランテでの日本ダービー制覇。
 あの時も厩舎陣営との馬作りでの摩擦を覚悟しながら志願して調教に携わり、課題だった折り合いを克服したからこそ成し得た勝利でした。

 地方競馬出身騎手の大舞台での活躍が目立つ背景には、このような馬の心と向き合いたいと思う気持ちと、労力を惜しまない行動力、そして厩舎陣営との衝突も覚悟で馬作りの輪へ飛び込んでいく勇気、これがあるからこそなのではないでしょうか...。
 そしてその根底にあるのは、やはり地方競馬時代に培われた数多くの調教の積み重ねと、厩舎へ足を運んでの馬や陣営との対話など、あらゆる面で馬作りに取り組んできた過程があるからこそ成しえる技術力と自信のように思えます。

 こんにち中央競馬の騎手を取り巻く環境は、エージェント制度が主流となり、騎手のフリー化も多いゆえ、中々厩舎へと踏み込んで陣営と共に馬を作っていく機会が減っている傾向にありますし、逆に騎手の立場から見ると、乗り替わりも多いゆえ、気持ちや労力を費やすことへの不安感や不信感がうまれているようにも感じます。
 となると、今後益々中央出身騎手と地方出身騎手の差は広がっていくように思えますし、若手騎手にとっては、馬作りに参加できないまま数年を過ごし、結果、短い騎手生命へと繋がってしまうようにも...。

 今回の宝塚記念の勝利後、「馬はロボットじゃない、心を持った生き物」とコメントした内田騎手。
 この言葉の意味と、栗東に滞在して臨んだ姿には学ぶべきことの多さと共に中央競馬を取り巻く今の環境に危機感を覚えるものでもありました。
 皆さんはどうお感じになられましたか?
 それではまた来月お逢いしましょう。
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