ホソジュンのウマなりトーク
第53回 馬同士の世界のSomething
2014.08.15
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先月、函館競馬最終日にグラスワンダー・スペシャルウィークが来場するとのことで、鈴木淑子さんと共にお披露目会に参加させてもらいました。実は私、2頭の現役当時は短き騎手人生の真っ只中。
しかも減量がとれて最も苦しい時期とあって、今のように客観的に競馬を見る余裕などなく、現場にいながら無関心に近い状況...。
騎手を引退してから2頭の歴史や過去のビデオを見直し、(こんなに凄まじい騎手の戦い、両馬の戦いだったんだぁ~)と、遅れての感動を味わう形に。しかしながら今見ても、そして何度見ても、面白い内容。特に宝塚記念で負けた武豊騎手が、有馬記念では逆にグラスワンダーを見る形で終始レースを進めたあたりには、勝負の神髄が垣間見れるものでした。勝利したと思ったら僅か4cm差で敗北。
今回、2頭は前日の金曜日に函館競馬場に入り、夕方にスクーリングをしたそうなので、スペシャルウィークはグラスワンダーの姿を見るなり、怒って威嚇。その姿はまるで当日の事を覚えているかのようだったらしく、普段から、グラスワンダーと同じ栗毛を嫌うことも、あの当時のトラウマだと解釈する方も。15年の時を経ても、2頭の間には終わりなき戦いが続いているかのようでした。
やはり馬は群れをなす生き物、その群れにリーダーは1頭。人間では理解できない争いがあるのでしょう。
そして同じ有馬記念で忘れられないのが、オグリキャップが勝利した90年のレース。敗戦続きのオグリキャップが制し、奇跡の復活と言われ今でも語り継がれる1戦ですが、先日、ゴールドシップに騎乗するため、栗東へと足を運ばれていた横山典弘騎手が、調教後、野性味溢れるゴールドシップの姿に、その有馬記念を思い出されていたのです。
あの時、横山騎手はメジロライアンに騎乗。「勝負所で俺のライアン、政人さんのホワイトストーン、河内さんのメジロアルダンの3頭が勝負所でオグリキャップの背中にビタッと止まったんだ。時計、道中の雰囲気、手応えからも差せる流れだったのに、一瞬凍りついたように3頭が...。あれは言葉では説明できない、何かオグリを抜かせない馬同士の暗黙の了解があったかのようだった」と。
考えてみれば普段の調教においても相手が変わると時計が2つ3つ変わることや、プライドがへし折られたかのように気力を失い体重が激減してしまうことも稀にあると耳にします。
一方、そんな馬の心理を察し、長期休養明けとなる際には、集団調教の先頭を歩かせ、自信や意欲を取り戻すことも。やはり馬は心も生き物であり、繊細な動物。それゆえメンタルが及ぼす影響というのは大きく、理屈ではない何かが存在しているように思えるのです。
実は私の騎手人生にも、たった一度だけ不思議な出来事がありました。
それは小倉の最終レース。11番人気のメイショウトキメキに騎乗した際、管理する元名騎手の高橋成忠調教師が、「この馬はスタート後は馬群でレースを進め、3コーナー過ぎから外へ出すと、走ることがあるよ」とおっしゃられたのです。11番人気、しかも3コーナーから外を回ることは通常で考えれば距離ロス。しかも小回りの小倉。訳も分からぬまま、しかも指示通りにめったに乗れたことのなかった私が、その時だけは高橋調教師の言葉通りの騎乗となり、勝利したのです。
あの時の感覚は今もなおよく分からないのですが、やはり騎手時代リーディングに輝いた実績のある高橋調教師は、各々の馬のやる気スイッチ・個性を見抜かれていたのでしょう。
馬の世界は、理論や理屈では通用しない何かが、レースにおいても普段の馬同士のあいだでも成立していると強く感じた今月でした。
それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
ホソジュンでしたぁ。
しかも減量がとれて最も苦しい時期とあって、今のように客観的に競馬を見る余裕などなく、現場にいながら無関心に近い状況...。
騎手を引退してから2頭の歴史や過去のビデオを見直し、(こんなに凄まじい騎手の戦い、両馬の戦いだったんだぁ~)と、遅れての感動を味わう形に。しかしながら今見ても、そして何度見ても、面白い内容。特に宝塚記念で負けた武豊騎手が、有馬記念では逆にグラスワンダーを見る形で終始レースを進めたあたりには、勝負の神髄が垣間見れるものでした。勝利したと思ったら僅か4cm差で敗北。
今回、2頭は前日の金曜日に函館競馬場に入り、夕方にスクーリングをしたそうなので、スペシャルウィークはグラスワンダーの姿を見るなり、怒って威嚇。その姿はまるで当日の事を覚えているかのようだったらしく、普段から、グラスワンダーと同じ栗毛を嫌うことも、あの当時のトラウマだと解釈する方も。15年の時を経ても、2頭の間には終わりなき戦いが続いているかのようでした。
やはり馬は群れをなす生き物、その群れにリーダーは1頭。人間では理解できない争いがあるのでしょう。
そして同じ有馬記念で忘れられないのが、オグリキャップが勝利した90年のレース。敗戦続きのオグリキャップが制し、奇跡の復活と言われ今でも語り継がれる1戦ですが、先日、ゴールドシップに騎乗するため、栗東へと足を運ばれていた横山典弘騎手が、調教後、野性味溢れるゴールドシップの姿に、その有馬記念を思い出されていたのです。
あの時、横山騎手はメジロライアンに騎乗。「勝負所で俺のライアン、政人さんのホワイトストーン、河内さんのメジロアルダンの3頭が勝負所でオグリキャップの背中にビタッと止まったんだ。時計、道中の雰囲気、手応えからも差せる流れだったのに、一瞬凍りついたように3頭が...。あれは言葉では説明できない、何かオグリを抜かせない馬同士の暗黙の了解があったかのようだった」と。
考えてみれば普段の調教においても相手が変わると時計が2つ3つ変わることや、プライドがへし折られたかのように気力を失い体重が激減してしまうことも稀にあると耳にします。
一方、そんな馬の心理を察し、長期休養明けとなる際には、集団調教の先頭を歩かせ、自信や意欲を取り戻すことも。やはり馬は心も生き物であり、繊細な動物。それゆえメンタルが及ぼす影響というのは大きく、理屈ではない何かが存在しているように思えるのです。
実は私の騎手人生にも、たった一度だけ不思議な出来事がありました。
それは小倉の最終レース。11番人気のメイショウトキメキに騎乗した際、管理する元名騎手の高橋成忠調教師が、「この馬はスタート後は馬群でレースを進め、3コーナー過ぎから外へ出すと、走ることがあるよ」とおっしゃられたのです。11番人気、しかも3コーナーから外を回ることは通常で考えれば距離ロス。しかも小回りの小倉。訳も分からぬまま、しかも指示通りにめったに乗れたことのなかった私が、その時だけは高橋調教師の言葉通りの騎乗となり、勝利したのです。
あの時の感覚は今もなおよく分からないのですが、やはり騎手時代リーディングに輝いた実績のある高橋調教師は、各々の馬のやる気スイッチ・個性を見抜かれていたのでしょう。
馬の世界は、理論や理屈では通用しない何かが、レースにおいても普段の馬同士のあいだでも成立していると強く感じた今月でした。
それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
ホソジュンでしたぁ。