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第73回 菜七子騎手フィーバー~改めて思う取材と取材の在り方~

2016.04.13
 3月は本当に忙しい日々でした。馬もルーティンを崩されると心身共に疲労が蓄積されバランスを崩す要因になりますが、41歳を迎えた今、私もアウェーな状況にガタッときてしまいました。
 これが歳を取るということなのでしょうか...。その理由とは、藤田菜七子ちゃんフィーバーによる各メディアからの電話取材。元女性騎手で現在マスコミに携わる立場から、一気に集中してしまったのでしょう。

 内容によっては30分ぐらいで終わるものもあるのですが、平均1時間以上、中にはトータル3時間以上のやりとりや、真夜中に確認の問い合わせなどもありました。正直、同じことの繰り返しが続く状況に、勘弁してほしいなぁと思えることもあったのですが、今の菜七子ちゃんとは違い、現役時代競馬界に貢献できずに終わってしまった申し訳なさや彼女の頑張り、また競馬を世の中の方々に身近に感じて頂けるチャンスとも思い、1つ1つ丁寧な対応に努めようと心掛けましたが、心底疲れてしまいました...。

 それにしてもデビュー間もない中で同期の男性よりも乗り鞍が集まる現状には驚きとともに、マスコミの影響力もさることながら、男性社会と言われてきた競馬の世界も変わりつつあるのだと再認識させられるものでした。

 この実状に、トレセン内を歩いていると、「お前の時とは180度違うよな」とか、「時代が悪かったな...あ、顔か(笑)」など、現場で一緒に過ごしてきた方々から声をかけられることばかりでしたが、競馬史における女性の歴史を紐解いていくと、風紀的な理由としてレースに参加できなかった幻の女性騎手や、競馬学校の受験すら叶わなかった方、また1期生として競馬学校の門戸を開いた女性など、たくさんの方々の歩みの延長線上に私も、そして菜七子ちゃんも立っているように思え、彼女がたくさんの騎乗機会を与えられていることを本当に嬉しく思えます。

 そして今回の取材に対する経験を踏まえて感じたことに、日々行われている現場取材の在り方や、重要性です。

 毎週トレセンで行われている週末に向けてのレースにおける各メディア・新聞取材ですが、GⅠ出走馬など注目される馬ともなると記者の方々は調教師や調教助手以外に、持ち乗り助手や厩務員の話を聞きたいと、馬房前に足を運ぶものでした。

 しかし近年は、厩舎への立ち入りを禁止する所や、従業員への質問をNGとするケースも多くなり、昔から現場に足を運ぶ記者の方々からは、「馬のことを1番理解している担当者の方の話が聞けなくなっている状況は、本当に寂しいし、つまらない。書きたいという気持ちが以前ほどないのだよね」との声を多く耳にします。

 一方で担当者の方々は、手入れに寝藁上げ、馬乗り、カイバ作り、治療など、日々やるべき仕事が多いだけに、やっと仕事を終えてから1人1人に対応するのは本当に大変なこと。

 しかも新聞社毎に順番待ちの状況となる為、今回の私のように、同じコメントの繰り返しとなり、面倒くさいと思えてしまうこともあるように感じますが、過去や現在対応して下さっている方々は、その1つ1つを大事に丁寧に対応されており、その姿勢が、書き手の言葉にも応援したいと思える内容や真実が映し出され、読み手が興味を抱く要因にもなっているように感じるのです。

 「名馬の影に名厩務員あり」のフレーズも、馬が人と交わり、対話し、幾度の困難を乗り越えながら競走馬として成長し勝利していく姿を連想させるもの。

 もちろん、どちらが良いとか悪いとかという話ではないのですが、合理化が図られるのは良いこともある反面、その一方で伝わり方が変わってしまっていっていることに、もったいなさも感じてしまいます。皆さんは、どうお感じになられますか?

 それではまた来月、お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
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