JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第109回 柴田未崎騎手 変わらぬ実直さと新たな顔 ~失ったからこそ、再び手にしたからこそ~

2019.04.17
 先日、久々のメンバーで食事をしました。その面々とは、関西の女性騎手だった3人。
 1つ下の13期生だった押田純子ちゃんは清水調教師の奥さんとなり今や3児の母。16期生だった西原玲奈ちゃんは、調教助手として働き、3年前に持ち乗り助手の旦那さんと結婚。今は主婦業もしながら、梅田調教師の右腕となって厩舎を支えています。そんな3人の話題となったのは、先月の小倉競馬1700メートルのダート未勝利戦をスナイプで勝利した柴田未崎騎手の話。というのも、その馬の管理厩舎が清水調教師であったこと、また普段、玲奈ちゃんが所属する梅田厩舎の調教を未崎騎手が手伝っていること、そして私の12期生の同期でもあることから、3人が口を揃えて、「ほんとに良かったね」と、未崎騎手の実直で、日々、黙々と調教に携る姿も重なり、同じ思いに。
 
 しかも純ちゃんの話によると、過去、調教中に躓いて転んだ経緯もあり、騎乗する上で心配な要素もあった状況下。それだけに無事に競走馬としてデビューができ、こうして勝利を得たことにも、安堵と喜び、そして未崎騎手への感謝も感じていました。

 その一方で、この勝利は2018年未勝利に終わった未崎騎手にとって、久々の勝ち星にも。未崎騎手といえば、柴田大知騎手と兄弟で、双子ジョッキーとして1996年に美浦所属でデビューし、その15年後の2011年に騎手を引退。その後、美浦の斎藤誠厩舎で調教助手として働きますが、2013年に騎手免許試験を再度受験し、2014年から再デビュー。

 復帰しての3年振りの初勝利となった際には、ここに至るまでの長き道のりに、言葉を詰まらせ、涙で喋れなくなるほどでした。そして2015年9月からは、所属を関東から関西へと移し、現在、栗東を拠点としての生活を送っています。

 今、朝のトレセンで見かける未崎君は、所属である飯田厩舎だけでなく、田所厩舎、梅田厩舎などの調教にも跨り、忙しそうにトレセンを動きまわっていますが、環境を変える決心をした際は、ゼロからの居場所作り、人間関係の構築、騎乗馬の確保など、様々な事柄と向き合っていかなければならず、それ相応の覚悟をもってのこと。と同時に、毎年、次から次へと新たな騎手がデビューを果たすとともに、海外・地方からの移籍、短期免許と、1つ勝つことはもちろん、1つのレースに騎乗することも容易ではない状況。

 よって今回も久々に手にした勝利に、「乗せてもらえて感謝しかない。ほんとに、ありがたくて」と。また、特に苦しかった2018年においては、「不安にかられる時もあったけど、自分のすべきことをしていれば、必ずチャンスは来る。だからその時の為にも、体作りと調教でやれるべきことを考えながら過ごしてきた」と話し、初動負荷トレーニングを主とする京都のジムへは週2で通い、調教には毎日騎乗。

 その背景には、騎手免許を1度返上し、調教助手や持ち乗り助手を経験したことで、裏方の人々がレースに至るまでに費やす長き時間や、馬が感情を持つ生き物であることに触れたことで、以前にも増して1つのレースに騎乗できることの重みを自覚してのものでした。

 変わらない実直さを感じながらも、その一方で、以前とは違う顔を持つ、騎手・柴田未崎。

 失ったからこそ、気づけたこと。裏方として競走馬に携ったからこそ分かったこと。そして再び手にしたからこそ、大事にしたいこと。

 様々な経験を経た彼だからこそ、感じ取れるものがあるように思われましたし、1人の人間として尊敬心を抱くと共に、頭の下がる思いにもなりました。

 それでは皆さん、また来月、お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
トップへ