JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第10回 初めての2頭撮り

2009.10.01
 9月8日川崎競馬場。3歳の重賞,戸塚記念が行われた。レースは2周目1〜2コーナーで先頭に立った5番人気ブルーラッドが,直線に入っても勢い衰えず1着。2着は道中4番手外を追走し,向正面で2番手に上がった1番人気のブルーヒーローという結果だった。
 レース後の口取り撮影。「ニトウドリだって」と,柳原さん(柳原プロダクション)から声を掛けられた。2頭撮り?そう,勝ったブルーラッドと2着のブルーヒーローは,同じ川崎の足立厩舎所属で,馬主さんも同じ。よって2頭撮りなわけだ。思い付くのはダイナガリバーとギャロップダイナの有馬記念とか。例えが古いか。南関東ではもう15年くらい写真を撮っているが,少なくともその間に撮った記憶はない。

 初めて(たぶん)の2頭撮り。手抜きで機材を軽くしようと,望遠ズームしか持ってきてなかった。おかげで2頭が入りきらない。下がっても下がっても入らない。あまり下がりすぎると,前方に居る他のカメラマンが被ってくる。往生した。馬主さんは嬉しそうだった。途中,ブルーラッドが下がって,握った2頭の手綱で八つ裂き?のような格好になっても,すごく嬉しそうだった。まあそうだろう。こんな機会は滅多にはない。

 「(ブルー)ヒーローになんとか勝ってもらいたかった。ヒーローは強い馬だと思っています。ただ,ラッドが勝った事にはホッとしてますけど」と足立調教師。そういえば5月の東京湾カップでも「勝つ馬が違った」と嘆いていた。そのレースでもブルーラッドが勝ち,ブルーヒーローは3着に敗れている。確かに直接の勝ち負けではラッドの方に分があるが,馬はヒーローの方に期待を感じさせる部分はある。実際ブルーヒーローはこれまで9戦し,1番人気は7戦。通算【3-5-1-0】と安定度も高い。今回は調教も動いていた。今のところ安定感でヒーロー,ここ一番の勝負強さでラッド,といったところだろうか。

 ところで,この2頭。実はもっと共通点がある。生産者は安平町の(善)橋本牧場。そして,ともにシーロ(USA)産駒である。

 シーロといえばWoodman産駒で,アイルランドのエイダン・オブライエン厩舎からデビュー。グランクリテリウム(1600m),リュパン賞(2100m)に勝ち,アイリッシュダービー3着後,アメリカに転戦。同地でもセクレタリアトS(芝10F)に勝つなどアイルランド,フランス,アメリカで走り12戦5勝,うち重賞4勝している。シーロの母Gioconda,その母はあのKorveyaだから,ヘクタープロテクター(USA)やシャンハイ(USA)の甥という血統である。2002年日本に輸入され,初年度24頭。2005年には39頭の種付頭数だったが,それ以降は減り,2008年はわずか5頭であった。2008年までに血統登録された産駒が91頭,69頭が出走し,33頭が勝ち上がっている。2年目の産駒であるレッドドラゴンが2007年のニューイヤーカップ(浦和)を制し,ブルーラッドは2頭目の重賞勝ち馬で,初の重賞2勝馬となった。

 地方競馬とはいえ,少ない産駒から活躍馬を出し,これで来年は種付けも増えるだろう,と思いきや,なんと昨年の9月,スキャターザゴールド(CAN)とともに,ロシアへ輸出されていた。

 ロシアといえば今年6月21日福島で,ロシア産馬ダノンシェル(RUS)がロシア産馬としてJRA初勝利(記録に残る86年以降)を挙げたのは記憶に新しい。ちなみに,ダノンシェルを生産したVoskhod Studには,かつて青森で繋養されていたアントレプレナー(GB)もいるそうだ。

 話がロシアへ行きそうなので戻る。ブルーヒーローの母コンサートクィーンは,ブルーラッドの姉,つまりラッドとヒーローは叔父と甥の関係だ。コンサートクィーンの父はカコイーシーズ(USA),その母マルゼンラッドの父はミルジョージ(USA)。なるほど,母系の血も地方競馬で馴染み深い。

 同じ年に同じ牧場で生まれた,同じ父を持つ近親血統で,かつ,同じ馬主,同じ厩舎。それが重賞戦線で好走し,ワン・ツーする。こういったケースはあまり聞いたことがないし,珍しい。ダービー馬サイレントスタメン(これも足立厩舎!)等不在で行われた3歳戦。果たしてこれは単に秋の珍事なのか......。今後も要注目だ。

JBBA NEWS 2009年10月号より転載
トップへ