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第11回 頭を使わず馬券を当てる

2009.11.01
 いつの世も「楽して儲けたい」は人間として当たり前の思考だと思う。もちろん現実の世界は甘くないことも良く知っている。

 この仕事をしながらの最大目標は「頭を使わず馬券を当てる理論を考える」ことだ。そのために頭を使ってあれこれ考えてきたが,40過ぎてやばくなってきた感じもしないではない。
 自分は学生時代から競馬場に入り浸りで,競馬場で知り合った仲間が開発したスピード指数系予想ソフトの開発テストに関わったことがある。

 スピード指数のようなタイム理論系の考え方は,アンドリュー・ベイヤーのベイヤー指数(Beyer Speed Figure)が元祖ではないかと思う。学生時代,山本尊さんが訳したベイヤーの著書「勝ち馬を探せ!!」には感銘を受けたものだ。

 競馬には着順を左右するあらゆる要素が存在する。特に記者になってからは,洪水のような現場からの談話,調教などの情報から,過去の成績まで,限られた紙面の中で読者に必要なもの,必要としないものに分ける作業,つまり編集を本業としているのだが,これがまた難しい作業だ。

 それこそ「人生いろいろ,予想もいろいろ」で,読者が必要としているファクターも「ひとそれぞれ」である。そこが各新聞のカラーを分ける要因になるのだろうが。

 タイム理論はその逆を行き,あくまでタイム。客観データのみを重視する。が,前述の通り結果を左右するあらゆる要因により,補正を余儀なくされ,結局は主観が入り,客観的でなくなるという弱点もある。結局頭を使わざるを得なかった。

 先日,有吉さんの会社のある週刊誌から電話があった。「競馬予想ソフトで160億円の所得隠し」についての取材。新聞記事によると,あるデータ分析会社が,騎手や血統,天候などのデータを入力し,確率の高い組み合わせをはじき出す,「独自の必勝プログラムを開発」とある。夢のような話だ。文字通り「頭を使わず馬券を当てる」。

 しかし,実際は3連単をオッズに応じて資金配分し,ほぼ全ての組み合わせを買っていたらしい。つまり「力技」だったのである。

 3連単発売当初より「全ての組み合わせを買う」という発想はあった。実際,某競馬場専門紙記者席内で,資金とマークカードを塗る手間を皆で出し合い,当時9頭立て以下ではあったが,全504通り買い続けていた。実際利益も出た。最終的にはマークを塗る手間の割に合わないという理由で終了となったが,最終収支はプラスであった。

 某記者席は均等買いだったが,そのデータ分析会社は資金配分を行っていたようだ。仮説ではあるが,1レースあたりの総賭け金に対し,オッズに応じて例えば10%の利益が出る組み合わせを目標値とするのは,株のシステムトレードの応用だし,パソコンを使えば容易だろう。人気がいびつなレースがあれば,それをパスする答を返すこともソフト側で可能だ。

 また,「ほぼ全ての組み合わせ」ということは,買わなかった組み合わせもあるのだろう。人気と着順の関係は,統計上ほぼ逆三角形になる。1番人気は勝率が高く,18番人気はめったには来ない。そう考えれば,各レース人気下位数頭を機械的にカットすれば,確率も利益率も高まるはずだ。基本的な統計は容易に取れるし,カットするラインの調整も統計で決められるだろう。

 実は,これらのことは何もプログラミングが出来なければ無理という話でもない。JRA-VANのデータと,Targetのようなフリーのデータベースソフト,そしてフリーの資金配分ソフトがあれば誰でも出来ることだ。もちろんPATも必要だ。案外独自のプログラムじゃないのかもしれない。

 ただ,最大の問題は軍資金だ。1レースで数億円を稼ぐなど,巨額な利益を得ていたらしい。100倍の万馬券なら単純に1点100万円以上は必要。18頭立て,下位6頭をカットして12頭の3連単全通りなら1320通り。均等配分で13億2,000万円必要になる。目標利益10%なら約1400倍の配当が得られないとならない。実際はコツコツと,もっと効率良く買っていたのだろう。

 これらは,機械的にほぼ全てのレースに投票したのではないかと思う。主観が入ると難しい。残念ながら真似できない話だが,着眼点はさすがデータ分析会社,と感心している場合じゃないな。


JBBA NEWS 2009年11月号より転載
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