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第136回 『無観客競馬』

2020.04.27
 2月26日、昼下がりの大井競馬場。フジノウェーブ記念の取材でいつものように競馬場へ来たのだが、どうも事務所内の様子が慌ただしい。

 知り合いの職員を捕まえて聞くと、どうやら全国の主催者の職員が集まり、何やら会議をしているらしい。前日に政府より「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が発表されたばかりだから、おおよそ会議の内容は想像がついた。おそらく「中止」か「無観客」かだろうと。

 まもなくメインのフジノウェーブ記念が発走するかしないか、そんな時間帯に第一報が。明日から当面の間「無観客競馬」が行われると。「無観客競馬」が行われるのは、戦時中に能力検定競走として行われた1944年以来76年ぶり。当然、現業で携わっている我々全員が初体験の事態だ。

 2月27日、無観客競馬1日目の大井競馬は、売上11億7,042万3,260円(SPAT4LOTO含む)。本場入場0人。前年の同日に相当する日(19回大井4日目)との比較で109.2%と、物珍しさもあり、まさかの前年超え。翌28日は9億9,194万2,760円(同上)で92.9%。27日はJRAネット投票(即PAT)有、28日はなしと、ほぼ前年と同条件で、無観客の影響はほぼ無かった。

 一方で他競技、特に競輪は、無観客で行われた奈良競輪GⅢ開設69周年記念の初日売り上げが前年比22%の2億8,264万3,600円であったことが衝撃的に報道された。

 ボートレースはまずまず持ちこたえ、オートレースはほぼ半減。その理由は、競輪場のファンは電話・ネット投票出来そうもないから、だとか、若いファンの導入に失敗した、だとか様々言われているが、ひとつはファンの高齢化も含めた現金系への偏重ではないかと推定し調べてみた。

 まず、本場・場外発売所の数を比較すると、JRAが競馬場とウインズ合わせて47ヵ所。地方競馬が昨年のJBC当日を例にとると98ヵ所。競輪が115ヵ所、ボートレース101ヵ所、オートレースが37ヵ所。現金で購入できる場所は、地方競馬、競輪、ボートレースが圧倒的に多い。

 次に、総売上に占める電話・ネット投票の割合(2017年)を調べてみると、JRAは67.0%(国内のみ)、地方競馬は67.4%、競輪が42.1%、ボートレース53.6%(2018年度)、オートレースが44.6%となっている。やはり競馬は他競技よりも電話・ネット投票の比率が高いことがわかる。

 それだけでは奈良の開設記念の数字を証明できないが、競輪の場合、2016年の資料を見ると、電話・ネット投票の約2,418億円のうち、ミッドナイト競輪の売上が約441億円を占め、15~20%の比率で年々伸びている。逆に、本場・場間場外・専用場外の売上は、減少の一途を辿っている。電話・ネット投票の比率の低さと、ミッドナイト人気が大幅減の理由であると断定していいだろう。

 話は競馬に戻り、注目のJRA無観客競馬。

 2月29日に行われた、中山、阪神、中京の無観客競馬は、前年比12.6%減となる178億4,354万5,100円。2日目の3月1日は、前年比20.1%減の262億2,562万5,800円で、2日間の合計は前年の同時期との比較で91億4,542万6,300円の減収となった。さすがにJRAともなると、1%の重みが違う。

 初日より2日目が落ちたのは重賞レースだろう。重賞レースがある日は、本場へ足を運ぶファンが元々多く、実は競馬専門紙の売上ともリンクする。

 衝撃的だったのは3月5日に川崎競馬で行われたエンプレス杯。これまでの最高売得金5億5,295万1,100円を2,378万8,000円上回る5億7,673万9,100円のレコードとなった。

 再び言うが、これは我々場内で商売している者にとっては衝撃的な数字だ。外販の多い中央版と違い、地方版はほぼ本場、場外での発売であり、ネット版、コンビニプリント版は伸びたものの、紙の部数減を補うには至らず。その中での売上増は、存在意義を問われる重大事件である。一方で1日単位、開催単位では概ね前年比約80%と減らしており、高知のファイナルレースの売上増など、特定レースへの偏重が目立つ傾向である。

 つらつらと書き連ねたが、堅い人気で決まる傾向だとか、馬を出走させる調教師側の印象だとか、高知競馬の1日の売上が船橋競馬や大井競馬を超えた件だとか、この無観客競馬はまだまだ語りたい事が沢山ある。しかし、紙幅が尽きたようなので、今月はこの辺で。続きは来月号に。

 先の見えない中、不安だらけではあるが、とりあえず競馬が行われている分、震災の時よりはまだマシと思って頑張っている。早期終息を願いつつ、次号へつづく。

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