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第70回 少しずつ次の段階へ

2020.09.28
 新型コロナウイルス感染拡大防止措置のための取材規制がスタートして7ヵ月あまり。ようやく制限付きで観客の入場が再開された場もありますが、2月末の大井開催を最後にいつもの歓声が消えた競馬場では、囲み取材も表彰式もない状態が長く続いています。

 この間、競馬場から消えたのは「人の姿」だけではありませんでした。例えば送迎バス。経路の関係で利用したりしなかったりという状態でしたが、実際に運行が休止になると、遠回りをして取材に向かうこともあり、いかにその存在が便利で快適なものだったのかが良く分かります。「使いたいと思った時に利用できる」という選択肢が、心にゆとりを与えてくれていたのですね。

 また、売店が休業となり、場内から「美味しい香り」が消えていることにも気がつきました。お店から出ている湯気や熱も、競馬場の活気の一部なのだと改めて感じる日々。そういえば、街を歩いていても、いつもと感じが違う。3密を避けているからでもなく、人の流れが変わったからでもなく、以前と比べて何かが足りないような気がするのは、マスクをしているために空気や風、香りを感じづらいせいかも知れません。船橋競馬場では、夏になると潮の香りが混じった心地良い風が吹きますが、今年はそれを忘れていたほど。なんとも寂しい限りです。

 さて、9月16日に川崎競馬場で行われた3歳馬による戸塚記念(SI)。レースから季節を感じられるのは競馬の素敵なところ。重賞の日に会うプレス仲間の皆さんに、そこはかとなく懐かしさを感じるようになったのも、コロナ禍の影響でしょうか。

 戸塚記念を制したのは、水野貴史厩舎(浦和)のティーズダンク(牡馬 父スマートファルコン)でした。羽田盃4着、東京ダービー3着と、クラシックで悔しい思いをしてきた無念を一気に晴らすかのような、鮮やかな末脚。川崎コースは父スマートファルコンにとって現役最後の勝利の場所。父とは違うタイプの競馬とはいえ、産駒の勝利は受け継いだ'強さ'を思わせるものでした。
 第70回 少しずつ次の段階への画像 「クラシックはとても悔しい思いがあったので、ティーズダンクにタイトルをプレゼントできたことが何より嬉しいです。休養明けでしたが、跨った時には、背も伸びて、力もついている感触がありました」と、勝利にエスコートした笹川翼騎手。口取り撮影時には、ティーズダンクに手を添え、首回りをぎゅっと抱いて、労いと祝福の気持ちを伝えていました。

 「クラシックでなかなか勝てなかったので、ここでひとつタイトルを獲らせてあげることができてホッとしています。最後はしっかりと伸びてくれる馬なので、交わしてくれると思って見ていました」と、管理する水野貴史調教師。ひとつ前のレースでは雨足が強くなる時間帯もありましたが、メインでは雨も上がり、煌きを増したナイターの光が、祝福の中での口取り撮影に華を添えていました。ティーズダンクの次走は10月4日(日)に行われるダービーグランプリを予定しているとのこと。今後の活躍にますます期待が高まります。

 ここまでの開催、撮影が許されている場のパドックでは、中継カメラに映りづらい場所を選んだり、万が一映ってしまった場合に、観客ではなく、許可をいただいて撮影していることがわかるよう、プレス証を見えやすくしたりということを行なってきました。取材をしながら、ふと、今年デビューしたジョッキーや馬たちは、競馬場の大歓声を知らずにここまで過ごしているのだなと思ったり・・・。また、ナイター競馬では、観客席に明かりがついていないせいか、場内が薄暗く、その上マスクを着用しているので、顔見知りのプレスの方に会っても一瞬誰かわからなかったりもします。

 送迎バスから降りて来た人の波、歓声、声援、競馬場グルメの香り、新聞を広げる音、場内アナウンス、明るいスタンド。そんな、いつもそばにあった競馬場の風景や音、光を、たとえ少しずつだとしても、取り戻せる秋になりますように。

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