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第74回 命を繋ぐ大切な存在「小西牧場」

2021.01.25
 馬産地から当歳誕生のニュースが聞こえる季節となりました。そこで今回は、競走馬の命を育む「縁の下の力持ち」、小西牧場の小西徹さんから電話取材でお話を伺いました。
 小西さんは元船橋競馬場の厩務員。岡林光浩厩舎に所属し、2008年の戸塚記念の優勝馬ジルグリッター、2009年の東京2歳優駿牝馬の優勝馬で、南関東重賞路線で活躍したプリマビスティーなどを手掛けました。そんな小西さんが故郷に戻ったのは2019年の春。まもなく2年になります。

 「岡林調教師には15年間お世話になりました。ずっと岡林厩舎。同じ厩舎に長くいたので馬主会から賞も戴いたんですよ。長くお世話になっていたこともあり、担当馬以外の所属馬についても、どの馬房にいるか、いつ牧場から帰厩したかなどの出入り、成績などを把握していました」(小西さん)。そう、取材に伺った際、よく馬房を案内してくれたのが小西さんでした。

 その小西さんの実家「小西牧場」は北海道日高町に位置し、種付け時の当て馬や、母馬の代わりに仔馬を育てる乳馬を提供する牧場として、なくてはならない存在となっています。「現在20頭の馬がいます。そのうち2頭はサラブレッド。1頭は厩務員時代に担当したブレッザで、今年はじめての種付けを予定しています。もう1頭はダンシングヒロイン。この仔はダンシングキイの孫なんですよ。こちらはモーニンを付けて、今年出産を控えています」とのこと。ブレッザについては後ほどお伝えしましょう。

 太平洋の雄大な水平線を見渡せる小西牧場。晴れた日には美しい海岸線の向こうに羊蹄山も望めるという絶景ぶりは、羨ましい限りです。「普段は朝5時半に朝飼いをつけるけど、冬は水道が凍っているので、朝飼いは父が担当。自分はお湯をタンクに入れて軽トラで運びます。内陸より雪は少ないけど、道が凍るから気を付けていますよ」。電話取材の時点(1月12日)で5頭の仔馬が誕生しているとのこと。「うちは乳馬の牧場だから秋ぐらいからお産が始まります。年明けするとサラブレッドの出産がスタートするので」(小西さん)。なるほど。仔馬を産んでお乳が出る状態でないと乳馬にはなれないですものね。

 「うちの馬を使ってもらう時はサラブレッドの母馬に何かが起きてしまった時なんです。だから、積極的に『使ってください』というアピールはしません。だけど、困っている生産者さんが声を掛けてくれた時にはいつでも大丈夫、いつでも動けるという状態にしています」と小西さん。「この前の中央の重賞レースに、うちの乳馬が育てた馬がいたみたい。知らせてもらえて嬉しかったですよ」と話していました。競馬新聞やレースの記事に載ることはないけれど、命を繋ぐ大切な役割を担う存在があるのですね。

 また、小西牧場では新種牡馬の試験交配(種牡馬としてやっていけるかどうかを調べる)のための牝馬を提供しているとのこと。そういえば、以前牧場にお邪魔した際には、乳馬として仕事に出掛けたお母さん馬に代わり、小西さんが仔馬の世話をしているという話や、生まれた馬が成長し、乗用馬として活躍した話なども伺いました。

 「この業界で生きてきて、装蹄師になった同級生をはじめ、人の縁に恵まれているなと感じることも多いです。船橋で担当していたブレッザが繁殖として来てくれたことにも、縁の大切さを感じています。ブレッザは競走馬時代、命にかかわる大怪我から復帰してくれたんですよ。だから、勝った時には感動して泣きました。C3のレースだったけど、とにかく嬉しかった。周囲からはなんで泣いてるんだよって冷やかされたけど、事情を話したらみんな『そりゃ泣くよね』と言ってくれて。ブレッザはこっちに来てからも相変わらずマイペース。かわいいですね」。どれくらいかわいいか、百聞は一見にしかず。過去の写真を探したら、船橋時代のブレッザと小西さんの仲良しショットがあったので掲載しておきましょう。

 第74回 命を繋ぐ大切な存在「小西牧場」の画像「実家に戻って来た頃には、厩務員としての印象が強いせいか競馬場にいても『え?そっち側(観客席)にいるの?』と言われることもありました(笑)。厩務員時代の経験からは馬を引く要領なども役立っていますね。ちょっとやそっと元気な馬でも平気(笑)」。そう話す小西さんから、立場は変わっても、変わることのない馬への愛情、仕事への熱意と誇りを感じました。近い未来、ブレッザの仔のお話を聞ける日も楽しみです。

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