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第75回 母から仔へと繋ぐ夢 シントーアサヒ

2021.02.25
 光や空気からも、春の気配を感じる季節になりました。今回は、2019年のユングフラウ賞がラストランとなった4戦3勝(うち大差勝ち2回)のシントーアサヒを主役にすすめていくことにしましょう。
 シントーアサヒ(父ストロングリターン)は新冠・細川農場の生産で、2017年のサマーセール出身。セール開催時はストロングリターンの初年度産駒による新馬勝ちが話題になっていた頃。購入したのは中野辰三オーナーでした。

 船橋の佐藤裕太調教師のもと、2018年11月のユーカリデビュー2歳新馬で競走馬としての大きな一歩を踏み出したシントーアサヒでしたが、そのデビュー戦はまさに「ぶっちぎり」という表現そのままの大差勝ち。圧倒的な走りに驚きながら、カメラを構えた記憶があります。当時の左海誠二騎手のコメントを振り返ると「大物感もあるし、スタートしてから他馬とは違っていましたね。裕太(調教師)には、『つかまっていれば大丈夫』(なほどの能力)と言われていました。鞭は直線で気合いをつけたくらい」というもの。佐藤調教師(元騎手)と左海騎手は騎手同期という間柄で、大差勝ちの余韻と共に、格別の喜びの中での口取り撮影となりました。

 続く2戦目、クラーベセクレタ・メモリアルでも大差勝ち。3戦目のアジュディミツオー・メモリアルは4馬身差をつけての快勝。「ステッキを入れてからの反応は良かったけど、前回も今回も3コーナー過ぎから遊んでいる。着差以上に強い馬」(左海騎手)。「シントーアサヒはレース勘が良い。センスが良い馬です」(佐藤調教師)と、陣営のコメントも頼もしさに溢れていました。

 その強さに加え、クラーベセクレタ・メモリアル、アジュディミツオー・メモリアルでの勝利もドラマチックでした。クラーベセクレタもアジュディミツオーも、騎手時代の佐藤調教師が調教パートナーとして深く携わった馬。このように、シントーアサヒは、人の繋がりや巡り合わせのロマンを感じさせる、たぐいまれな魅力も持ち合わせていました。

 その先の走りに大きな期待を集めていたシントーアサヒでしたが、1番人気で出走した2019年のユングフラウ賞で鼻出血を発症。それでも4着と奮闘しました。一旦は休養に入りましたが、脚部不安から繁殖の道へ。そこには中野オーナーの「アサヒに辛い思いをさせたくない」という愛ある決断があったそうです。

 繁殖入りしたシントーアサヒは静内山田牧場で繋養され、この春、初仔・父デクラレーションオブウォーの牝馬を出産しました。「競走馬時代のシントーアサヒは、2歳の夏から秋になる頃、体つきがぐっと変わったのがわかりました。デビュー戦はスタートしたらあっという間にコーナー。いつもはゴール板まで気が抜けないのですが、アサヒの新馬戦は圧巻で、ゴールの前に勝てる!と思えた初めてのレースでした」。そう語ってくれたのは、静内山田牧場の山田大貴さんです。
  第75回 母から仔へと繋ぐ夢 シントーアサヒの画像 山田さんによると、当歳はアサヒの気品のある顔立ちに似ているそう。初仔ながら背も高いとのことで、気性は現時点ではアサヒに似て少しおしとやかな感じ。生まれた時も補助なく自分で立ち、お乳も自分から吸ったそうです。荒々しさがなく、自分で何でもこなしてしまうところも、母アサヒに似ているとのこと。一方、母となったシントーアサヒは、初めてのお産の後、直ぐに我が子を呼び、寝ながらでもすぐに仔の体を舐めて愛情を示すなど、とても良いお母さんとなっているそうです。

 「アサヒの仔には、母の忘れ物を取るような活躍をして欲しいという思いはありますが、ファンの皆さまにたくさん応援していただけるような、中野オーナーやアサヒの思いに応えてくれるような競走馬に育ってほしいと思っています」と山田さん。

 シントーアサヒの走りには、どこまで強くなるのだろう、どんなレースをしていくのだろうと、夢を描ける大きな魅力がありました。シントーアサヒが繋ぐドラマの続きを、楽しみに待つことにしましょう。
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