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第35回 南部杯に思う

2011.11.09
 ご存知の通り,今年の『マイルチャンピオンシップ南部杯』は東京競馬場でJRA主催競走として行われた。
 '岩手の星'ロックハンドスター(ルー大柴氏にちなんで命名,ロック=岩,ハンド=手,スター=星)が芝とダートの境目で驚き,ジャンプして着地でバランスを崩し右上腕骨々折......という,ある意味悲劇により,空気は一転追悼ムードに支配されてしまったが,こう言ってはなんだが,このレースの結果はもっと悲劇的だ。

 予め予想されていた,というよりは今年に限っては期待されていたレース売得は70億2941万6200円。前年が5億32万3400円だったから,実に14倍増という結果。筆者自身は80億ぐらいは行くんじゃないかと予想していたので,それよりは少なかったが,それにしてもこの結果は残念ながら「地方競馬のあり方」が問われてもおかしくはない。

 大方この結果が予想できたのは,2003年のJBCが頭にあったからであろう。
 覚えていない方,あるいは忘れたいと思っている方に思い出してもらうと,2003年のJBCは大井競馬場で開催されたが,当日,JRAの福島競馬が開催され,JRAの施設12ヵ所での併売を含む,当時最大規模の全国71ヵ所での発売となった。JRAの施設で併売するため,この年はナイターを諦め,昼間開催で行われ,さすがの大井競馬と言えども2万7027名と,本場の入場者数も大きく落としていた。

 そして,何よりも関係者を落胆させたのが,その売得だった。JBCスプリント9億215万4100円,JBCクラシック12億3771万4300円。大井競馬1日の売得が36億2926万4100円(内JRA12施設での発売額は5億6027万8000円)に対し,福島競馬の1日売得は96億14万1500円。メインレースの福島放送賞(1000万下)は20億7043万9400円と,JBC2競走を遥かに上回る結果となった。

 当日の首都圏は雨が降りしきる悪天候に見舞われ,客の出足も確かに悪かったのだが,JBCスプリントにはサウスヴィグラス,マイネルセレクト,スターリングローズ,ノボトゥルー,ノボジャックらが出走していて,JBCクラシックにはアドマイヤドン,スターキングマン,カネツフルーヴ,ユートピアなどが出走。全日本リーディングジョッキー競走が行われ,各地のリーディングジョッキーも集まり,JRAからも武豊騎手や安藤勝己騎手,福永祐一騎手,O.ペリエ騎手,船橋で短期騎乗中だったM.デムーロ騎手までいる豪華な顔ぶれも揃っていた。

 一方,福島放送賞の出走馬をすぐに思い出せる方はまず居ないだろう(1着ワイルドファイアー・2着スパルタクスで決着)。
 本業的にみれば,日刊競馬の主戦場・福島競馬と大井競馬で,全レース発売の場外も多かったこともあり新聞は売れて,ちょっと嬉しかった事を思い出す。ただ,気持ち的には複雑だったことも覚えている。

 あれから8年経って,同じように気分は複雑だ。併売だった前回と違い,今回の大井版に南部杯の柱が載る事はなかった。特に専門紙間での取り決めはなかったので,載せようと思えば載せられたのだが,売らないレースを載せると,また後処理が面倒になると思い,トピックスの形でメンバーと予想だけ載せた。そして新聞には『大井競馬場・場外では南部杯の発売はありません』と入れた。

 今回は好天に恵まれ,客の出足も良く,首都圏単独。条件が揃いまたしても新聞は売れた。
 さて,これをどうやって消化しようか,ひじょうに悩ましい。メンバーよりも開催場,特にJRAの開催であることが売得向上のカギ。以前から言われているダートグレード競走,そして地方競馬そのものの『商品価値』への疑い。いずれも8年前には既に言われていたことで,現状は全く変わっていない。

 来年,地方競馬共同トータリゼータが稼動。それに伴い,即PATでの地方競馬発売も始まる。「地方競馬のあり方に係る研究会」「我が国の競馬のあり方に係る有識者懇談会」でも議題に上った案件だ。しかし,ハードやツールが揃っても,『地方競馬そのものの魅力』が向上しない限り,先行きは暗いと言わざるを得ない。
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