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第94回 『還暦の帝王』

2016.10.18
 9月7日、'大井の帝王'こと的場文男騎手が60歳の誕生日を迎えた。
 的場文男騎手は1956年9月7日生まれ。1971年に下乗りとして大井の小暮嘉久厩舎に入門。中学卒業後地方競馬教養センターの第20期長期騎手候補生となる。20期の同期には、現役の森下博騎手、山崎尋美調教師、石川綱夫元調教師(故人)など。教養センターのかつての教官によると、この期はかなり仲が良かったそうだ。

 1973年10月16日、大井競馬第5競走のホシミヤマに騎乗しデビュー。同じ年の11月6日、大井競馬第4競走でデビュー戦と同じホシミヤマで初勝利を挙げる。

 だいぶ中間をすっ飛ばすが、2016年8月1日の大井競馬第2競走をダンディゴールドで勝ち、デビュー38,598戦目で地方競馬通算6,900勝を達成。その2日後の2016年8月3日、大井競馬で行われたサンタアニタトロフィーをリアライズリンクスに騎乗し勝利。これが59歳10か月での勝利となり、自身の持つ国内最高齢重賞勝利騎手の記録を更新した。

 参考までに騎手の記録を調べると、地方競馬の最年長勝利記録は2012年5月6日、金沢競馬第1競走をブライアンズメテオで勝った山中利夫騎手(引退)の62歳9か月で、これは中央・地方競馬を通じて国内最年長騎手勝利記録でもある。

 また、国内の最高齢騎乗記録は、平地では前述の山中利夫騎手の62歳11か月と10日だが、中央競馬で行われていた繋駕速歩競走に出場した小野留嘉騎手の68歳という記録がある。

 現在、国内現役最高齢騎手は的場文男騎手と同期の森下博騎手で、1955年5月4日生まれの61歳。的場文男騎手よりも'1学年上'であり、2018年の4月末には'乗る度に記録更新'となる予定。

 また的場文男騎手にしても、森下博騎手にしても、現役である限りは国内最高齢重賞勝利騎手を更新する可能性は高い。

 的場文男騎手にしか(おそらく)更新できそうもない記録がある。佐々木竹見騎手が持つ地方競馬通算7,151勝の更新である。

 本稿執筆時点で地方競馬通算6,909勝。目下歴代2位の記録で、佐々木竹見騎手の記録まであと242勝である。6,800勝から6,900勝までがおよそ9か月であったことを考慮すると、ケガさえなければ更新は間違いないのではないかと思う。

 的場文男騎手が還暦を過ぎても現役を続ける理由のひとつが東京ダービーではないだろうか。

 「人生の宿題」と自らが語った東京ダービー。いわゆる'ダービー'と名の付くレースはアラブダービー3勝、ダービーグランプリも1勝しているが、なぜか東京ダービーは35回騎乗し2着9回。ちなみに東京ダービー初騎乗は1979年のシーイーグルで14頭立ての13着だった。馬主は谷真翁氏。日刊競馬の前会長の所有馬という縁。

 トップジョッキーにしては比較的ラフプレーが多い方で、かつては時々レース後に騎乗について言い争っている姿を見かけたし、那須の教養センターでの研修中に偶然会ったこともあった。以前聞いた時には「勝負になるとどうしてもね」と答えてくれたが、最近はそういう場面も見かけないし、丸くなった?のかもしれない。ただ、あきらめない姿勢は相変わらずで、それがファンの多い理由のひとつなのかもしれない。

 特に騎乗スタイルについては「あれで馬が動くのが不思議」と他の騎手も言っているが、何度か尋ねたことがあるし、騎乗スタイルについてのインタビューをいくつも読んだが、いまだに原理がよくわからない。「長年やっていて、少しずつ工夫していった結果」とのことだが、足のくるぶしに騎乗で出来た大きなタコ?があって、どうやらそこがポイントらしいのだが謎である。似たようなスタイルで騎乗する騎手も見かけるが、同じなのかどうかすらよく分からない。

 9月7日、還暦を迎えた的場文男騎手。誕生日は園田競馬で騎乗していた。通算2,000勝以上を挙げた騎手だけが出場する「第25回ゴールデンジョッキーカップ」に騎乗し、参加最年長で2位。さらに、当日の最終レースで「的場文男騎手還暦メモリアル競走」が行われる歓待ぶり。

 還暦については「自分ではあまり60歳とは感じていない、50歳くらい(笑)」と。確かに若いが、それでもやはり60歳。いつまでもお元気で、ケガなく少しでも長く騎手生活を続けて欲しいと願っています。
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