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第147回 『スター誕生』

2021.03.25
 1月27日、川崎競馬場で第70回川崎記念(JpnⅠ)が行われた。単勝4番人気、張田昂騎手が騎乗したカジノフォンテン(船橋・山下貴之厩舎)がマイペースの逃げに持ち込み、最後の直線でも独走。2着オメガパフュームに3馬身の差を付け、人馬ともにJpnⅠ初勝利を飾った。
 前走の東京大賞典(GⅠ)でも好位から早めに抜け出したが、ゴール寸前オメガパフュームの底力に屈してクビ差2着。「根性が足りなかった」と悔しさを滲ませていた。

 それから1か月。「今度は勝ちたいです」と意気込みを見せていたが、レースでは冷静にスタートを決め、外から競りかけてくる馬がいないことを確認すると、ジワジワと2番手以下との差を開き、単騎マイペースに持ち込んだ。1000m通過は推定65秒のスローペース。

 2番手ダノンファラオは前を追いかけつつも、意識は直後の外にいるオメガパフュームに向いていたように見えた。そのオメガパフュームにとっては、左回り、コーナー部分のキツイ川崎コースは明らかに条件が合わないが、距離損しても外目を大きく回るコース取りで、スムーズなコーナリングに努めていたように見えた。

 「いつも通りこの馬のペースを崩さないように、この馬の力を信じて乗りました。手応え、リズムはすごく良かったです」と張田昂騎手。

 最後の直線を向いても勢いは衰えず、ダノンファラオを引き離し、追い込んできたオメガパフュームは勝負処のコーナー部分でモタついた分、上り2位37秒4の脚も3馬身差届かなかった。

 無観客のスタンドに向かって右手の人差し指を高く掲げた張田騎手。検量前では父の張田京調教師が迎えて、息子を抱きしめていた。張田京師も騎手時代にインテリパワーで制しており、親子2代制覇である。

 思えば、JRA競馬学校卒業半年前に退学し、船橋で厩務員をしながら地方の騎手試験(いわゆる一発試験)を受験。何度も落ち続け、デビューしたのは25歳という苦労人である。張田調教師もさぞかし嬉しかったことだろう。

 また、2011年の勝ち馬フリオーソ以来、川崎記念の地方馬勝利は実に10年ぶり。近年地方競馬の活躍馬はスプリント路線が中心であったが、中距離路線の新たなスターの誕生である。

 管理する山下貴之調教師も川崎記念、JpnⅠ初勝利。「途中で勝てるかなと思ったけど、最後まで油断しないで乗ってくれた」と騎手を称えた。

 カジノフォンテンのスター要素のひとつは、その血統だ。父カジノドライヴ(USA)はデビュー戦に勝ち、兄弟馬が活躍していたことからも、ベルモントS(GⅠ)制覇を目標に渡米し、2戦目となったベルモントパークのピーターパンS(GⅡ)に勝つ。これは日本調教馬によるアメリカのダート重賞初勝利となった。そのベルモントSはレース前日、ざ石で無念の取り消しとなった。

 その後はサンタアニタの条件戦と、1600万下のアレキサンドライトSに勝ち、2009年のフェブラリーS(GⅠ)ではサクセスブロッケンの2着と健闘。種牡馬となってからもみやこS(GⅢ)に勝ったヴェンジェンスなどダートの活躍馬を輩出していて、今は亡き父に、今回カジノフォンテンがJpnⅠの勝利をもたらした。

 母はジーナフォンテン。上山でデビューし、4歳に船橋移籍。スパーキングレディーC(GⅢ)、エンプレス杯(GⅡ)などに勝った。また、2003年の川崎記念ではカネツフルーヴの3着と健闘している。上山デビューと言うこともあり、今でもひじょうにファンの多い馬である。産駒はこれまで重賞挑戦すら届かなかったが、5頭目のカジノフォンテンが昨年の京成盃グランドマイラーズと勝島王冠に勝ち、東京大賞典(GⅠ)でクビ差2着、そして今年、JpnⅠの川崎記念に勝った。

 川崎記念の勝利は、山形新聞でも取り上げられ、ゆかりの深い方々が今後の期待を語っていた。

 レース当日、筆者は地方競馬中継の解説であった。結果は△○◎の順で、相手を絡めず流したため残念ながら的中とはならなかった。

 東京大賞典で上りが少しかかっていたのと、ダノンファラオが、叩いてハナに行く可能性をどうしても捨てきれなかったのが敗因。展開パターンを絞り切れなかった。2周目の向正面で川田騎手がチラッと後ろ(オメガ)を確認した(と思われる)素振りを見て嫌な予感がした。マークの薄い逃げ馬は、やはり逃げ切る。

 ちなみにそういう場合、レースを観つつ、どういう言い訳をするか一生懸命考えているのである。
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