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第152回 『キャッスルトップに◎を打った男』

2021.08.26
 7月14日、大井競馬場で3歳ダートの頂点を決める一戦、第23回ジャパンダートダービー(JpnⅠ)が行われた。
 13頭立ての12番人気だったキャッスルトップ(船橋・渋谷信博厩舎)が、好スタートを決めそのままハナを奪う。最初のゴール板前が11秒9、600mが35秒6とかなり速く、ゴール前のカメラマン仲間とも「速いね」と話していた。おそらく最後はJRA勢、とその時点では思っていた。

 今年の出走馬には関東オークス馬ウェルドーンがいた。この馬は牡馬相手の鳳雛ステークスを勝っていたのだが「牝馬が鳳雛ステークスを勝つってことは、案外今年のJRAの牡馬は弱いかもね」なんていう話を出馬確定前夜に会社で同僚たちと話していた。

 といっても東京ダービー1、2着馬は不在で、3着のブライトフラッグは本橋騎手に乗り替わってから脚質転換し、後方から末脚を生かす競馬で羽田盃0.7秒差7着、東京ダービー0.2秒差3着と好成績を残してきたが、やはり他力本願で計算しづらい。ならば、JRA勢で別路線組か、ということになって◎は兵庫チャンピオンシップに勝ったリプレーザ、○にユニコーンステークス勝ち馬スマッシャー、▲も兵庫チャンピオンシップ2着のゴッドセレクションという、ベタベタな予想になってしまった。

 向正面に入り、800m48秒9、1000m62秒6。見た目からも明らかにペースが落ちて、逃げ馬に息が入る流れに。それでも前半あれだけ脚を使えば、後半保たないはず。まだそう思っていた。

 3~4コーナー。先頭はキャッスルトップ、2番手は帝王賞男松山弘平操るロードシュトローム、3番手ゴッドセレクション。3番手のゴッドセレクションは兵庫チャンピオンシップで早めに動き、最後はリプレーザに交わされてしまうのだが、今回は動く気配がない。その後ろにウェルドーンやブライトフラッグ、スマッシャーが控えているだけに、もしかしてこれは動くに動けない状況か。

 この開催は逃げ・先行馬有利な馬場で、当日も10レースまで、逃げ馬は逃げ切り2、2着6回の先行馬天国。差し馬も馬場の外を伸びてくるが、余程前半ペースが上がらない限りは2着に届くかどうかという感じ。

 4コーナーを回って直線。キャッスルトップが逃げる。すぐ外にロードシュトローム、連れてゴッドセレクションとウェルドーン、内に切れ込んだリプレーザ、大外からスマッシャー。

 残り100m。まだ粘るキャッスルトップに、JRA勢が内から外からどっと押し寄せ、ウェルドーンとゴッドセレクションが迫る。しかし、アタマ差キャッスルトップが逃げ切った。

 2~4着の着差はアタマ+アタマ+クビで、タイムは1~4着が2分5秒9の同タイム。ゴール前にいるとモニターで観る以上の接戦で、思わずゴール寸前で大きくズームを引いた。

 キャッスルトップの鞍上は仲野光馬騎手。地方競馬教養センター入所も、卒業間近で退所となり、厩務員をしながら、いわゆる一発試験を受け、24歳の時に川島正行厩舎で騎手となった苦労人。

 今年8年目だが、このレースの前までで通算44勝。大井競馬はそれまで1勝。もちろんJpnⅠ勝ちどころか重賞勝ちもなかったが、それがいきなり「GⅠジョッキー」だ。表彰式前に「表彰式とかインタビューとか初めてだよ」と言いながら出ていったが、なかなか落ち着いていたように見えた。勝負服はあのダイユウサクをイメージしたものだというから、名は体を表す、というか「勝負服は体を表す」というか。手首、フォームの柔らかさ、馬のあたりの柔らかさには定評があり、川島厩舎時代は、クラーベセクレタなど数々の名馬の調教も担当していた。それが今回生きたか。

 筆者は「無印-▲-△」でまるっぱずれだったが、なんとキャッスルトップに専門紙、日刊紙で唯一◎を打った男がいた。後輩の大井TM市川俊吾だ。大逃げで好タイム3連勝の内容を買ったらしい。しかも当日は南関チャンネルの解説だった。中継は解説者の予想に沿ってカメラを映す構成で、当日上位人気はほぼ画面に映らず、12番人気を延々と追う、なんともおかしな中継だったが、まさか当てるとは恐れ入った。大先輩吉川彰彦も「数々の大穴を当てた先輩や後輩を見てきたが、その中でもこれは凄い」と言う。

 翌日はネットのアクセス数など、あらゆる数値が通常の10倍以上だった。地方編集の責任者としては「キャッスルトップに◎を打った男」を10年ぐらいは引っ張ってやろうかと思っている。

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