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第120回 待ち望んだ「夢」の続き

2024.11.25

 先日、親族の集まりの席で「生きていて良かったと思うのはどんな時ですか?」と聞かれたことがありました。質問の主は20代を終えて間もない青年。

 うーん。ところどころ嬉しいことや心躍ることはあるけれど、人に発表するような、真剣な表情で回答を待つ青年に話すようなことは・・・と思っていたところ、ふと頭に浮かんだ場面。それは、10月28日の船橋競馬場でのことでした。

 10月28日の1R・2歳二(ダート1200)。勝利したのはブレッザドリーム(馬主:井手慶祐様 岡林光浩厩舎)。鞍上は岡村健司騎手でした。ブレッザドリームについては、前々回のこのコラム『見続けることで深まる楽しみ』で”夢の続きを紡いでいる”と触れたばかり。今年5月の2歳新馬戦から5戦目で、夢のひとつを叶える結果となりました。

 ブレッザドリームの生産者は、母ブレッザ(馬主:井手慶祐様)を厩務員として手掛けた小西徹さん。船橋競馬場・岡林光浩厩舎を経て、日高町にある実家の小西牧場(小西章様)に戻って5年が過ぎました。

 「ブレッザドリームは生まれた時には“ぬいぐるみ”みたいな、かわいい小さい馬でした。でも普通より早く、10分か15分で立ち上がったんですよ。オーナーに『無事に生まれました』と連絡している間に立っちゃって。それを見た時、小さいけどバランスが良い馬なんだなと思いました」と、小西さんは当時を振り返ります。

 母ブレッザは現役時代に大怪我を負い、生命の危機という苦難を乗り越えて復帰。見事勝利を飾りました。「あの時はC3のレースだけど泣いてしまいましたね。すごく嬉しかった」(小西さん)。

 そうそう、これは2021年1月のこちらのコラムでもお伝えしたエピソードです。ラストランを勝利で飾ったブレッザは、オーナーをはじめ周囲の皆さんの想いのもとで繁殖入り。そして、2022年春に誕生したのが初仔・ブレッザドリームでした。父はゴールドドリーム。

 「当歳の頃のブレッザドリームはとにかくやんちゃでしたね。放牧地まで引っ張る時も元気いっぱいでしたよ」という小西さんの言葉にもありますが、仔馬時代からの気性は今も健在。闘志あふれる競走馬となり、さらなる成長を続けています。

 

「ブレッザドリームの担当者から、ここ何戦かでパワーが付いてきたと聞いています。ブレッザは4歳になってようやく周囲から『その馬、芦毛だったんだ?』と言われるくらいに白くなるのが遅かったけど、ブレッザドリームは母馬よりも早く白くなってきましたね。顔もブレッザに似ていますね」と、小西さんが嬉しそうに語っていました。

 ちなみにブレッザの2023年産駒は父モーニンの牡馬。こちらもすくすく成長中とのことで、早くもデビューが楽しみな存在。競馬をしていると月日の流れが速い。きっとこの馬の勇姿を観られる日も、あっという間に訪れるのでしょう。

 思い起こせば2021年1月、初めての種付けを控えたブレッザについて聞いた電話取材。その時に「ブレッザの仔のデビューや勝利の話ができたら嬉しいね」と話していたのですが、3年後の今、それが現実となりました。

 さて、冒頭での青年から受けた質問に対する答え。それは「過去に少しずつ積み重ねて、楽しみに待っていたものが、光を浴びるのを見聞きした時」。「応援していた人や馬に、“良いこと”があった時」。

 嬉しいな、とか、良かったなと思う瞬間が、競馬にはたくさん散りばめられている。それは結構「生きていて良かった」に繋がることのような気がします。「生きていて良かった」と文字や言葉にすると少し大袈裟になるけれど、誰かと喜び会える時間がまさにそれに当てはまるような。その対極にある苦労や悔しさ、それらを慮ればなおさらに。 今回取り上げたブレッザドリームですが、芦毛感はその尻尾の毛色からも伝わってきます。パドックでシュンと揺れる、まだ黒さが勝る尻尾には銀色の毛が混ざってとても美しい。競馬場で、その「シュン」の中にキラリとした銀色の毛がきれいに流れる様子を撮影できると、「やった♪」と嬉しくなって、何度も写真を見返してしまうのです。次走は照明が点く時間帯の出走となる見込みで、新たな魅力も見つけられそうです。

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