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南関フリーウェイ

阿部典子 南関フリーウェイ

第61回 繋がれた夢の先に見えた風景

 時々、"競馬の神様の存在"を感じる場面に出会うことがあります。それは、気まぐれだったり、次のシーンへの試練だったり、そして、魔法のようにドラマチックだったり。

 12月13日、船橋競馬場で行われたカトレアデビュー2歳新馬で勝利したのは、佐藤賢二厩舎のブラヴール(牡馬)でした。父は南関東で4つの重賞を制したセレン。母は唯一の南関東3冠牝馬のチャームアスリープ。そう、南関東競馬にとって夢の血統とも言える存在です。オーナーは父母と同じく、山口圭子オーナー。生産は父母同様に新冠の村田牧場というところからも、込められている"大切な思い"を感じます。

 父セレン、母チャームアスリープという夢の配合はブラヴールで2頭目。昨年デビューしたレーヴ(3歳牡馬)も佐藤賢二厩舎に所属してコツコツと堅実な走りを続けており、現在B2クラスで頑張っています。ちなみに、2015年にこちらに掲載した『第4回 南関東競馬3冠牝馬チャームアスリープが繋ぐ夢とロマン』の記事にセレンの種付けに関する内容がありますが、その時にチャームアスリープのお腹に生を受けたのがレーヴでした。

 話をブラヴールに戻しましょう。

 雄大な馬体の兄姉たち同様、この日のブラヴールは487キロでのデビュー。パドックでは時々、尻尾をちょこっと上げる微笑ましい仕草を見せていましたが、しっかりとした歩様で周回していました。

 降ったり止んだりしていた小雨もあがり、雲の間から少しだけ陽の光が差し始めたレース直前。無事にスタートを決めたブラヴールは2番手で競馬を進め、そのまま4コーナーを周ると最後の直線で前を行く馬を捉え、外からぐいっと伸びて1/2馬身差で勝利しました。

 外からぐいっと。それは、"一押し"されて力を得たかのような伸び・・・。カメラのレンズ越しに見ていて、そんな気持ちになる走りだったように思います。

 ブラヴールはチャームアスリープにとって最後の産駒。競走馬としてだけではなく、繁殖牝馬としてもたくさんの夢を繋いでいたチャームアスリープですが、2018年に天に召されてしまいました。

 「父はセレン、母はチャーム。ブラヴールは私にとって宝ものですね」と山口オーナー。「お兄ちゃんのレーヴと比べるとブラヴールは大人っぽいように思います。勝てて嬉しいですね。小雨が降っていたのに、レースの時には陽が差して、口取りの時には虹が出て・・・」(山口オーナー)。

nf201912pic.jpg

 競走馬にとって"無事にデビュー"に至るのは大変なこと。どの馬にとっても、また、関わる人々にとっても、ひとつの勝利は大切なもの。ましてや、両親が駆けたゆかりの地での新馬勝ちなら格別でしょう。口取り撮影の時に架かっていた虹は、まるで勝利をお祝いするかのように、そして、見守る力がそこにあるかのようにも見えました。

 実は、その虹が出ていたのは口取り撮影のわずかな間だけ。写真に写る位置ではありませんでしたが、虹が架かっていた北東の空の向こうには、ブラヴールの故郷でもあり、父セレンと母チャームアスリープも暮らした北海道、村田牧場がある・・・。口取り撮影が終わる頃には、虹はすぅっと空へと消えていきました。

 こうして振り返ると魔法のような出来事でしたが、そんな時間を引き寄せたのは、周囲の人々に育まれながら、コツコツと頑張って来たブラヴールの努力のたまもの。あの"ひと伸び"は本当に力強いものでした。受け継がれた父母の姿を重ね合わせながら、これからの走りを応援していきたいと思います。

 なお、船橋競馬場は2023年の完成を目指して、施設のリニューアル工事がスタートするとのこと。12月開催では、管理サイドからの関係者への聞き込みなども行われていたようで、新築物件を建てる時のような「あれもいいね、こういうのもいいね」とウキウキワクワクな雰囲気もありました。

 従って、船橋競馬場での、数々の名馬や思い出の馬たちが駆けた風景は間もなく見納め。変化していくもの、変わらず受け継がれていくもの、その両方を楽しんでいければと思います。