南関フリーウェイ
第133回 語り継ぐこと
競馬関係者・ファンのみならず、幅広い層から注目を集めた日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」。普段は競馬を見ない母も「ロイヤルファミリー、見てるのよ。(趣味の)お稽古仲間もそう言ってた」となんだか楽しそう。お稽古の後にいろいろと感想を語り合っているそうです。どんな感じなのか、ちょっとお邪魔してみたい。
「ザ・ロイヤルファミリー」のキーワードは継承。調べてみると、継承は具体的なものを受け継ぐ際に用いられる表現とのこと。今回は、継承の“継”の字から語り継ぐことについて考えてみました。ちょうど周囲で「フリオーソの現役時代を知らない世代と出会った」という話を耳にしたのも、理由のひとつ。
まずは、そうかフリオーソの現役時代を知らない世代か・・・と軽い衝撃で遠い目になるところからスタート。取材に多くの時間を費やし、レース結果に胸を熱くした地方競馬の雄・フリオーソ。2026年で22歳という馬齢を考えると、若い競馬ファンが現役時代を知らないのも納得です。フリオーソの新馬戦は19年前、2006年7月のことでした。
とはいえ、やはりその活躍がもたらしてくれた昂揚を知る身としては「ほとんど知らない」「聞いたことはあるけど・・・」と言われると、なんともフクザツな気持ち。けれど、私自身も同様で、回顧記事や過去のレース映像でしか知らない名馬たちが数多く存在しているのも事実です。
フリオーソに話を戻しましょう。その経歴は地方競馬の光を集めたような眩しさ。地元のかしわ記念をはじめとしてJpnIを6勝、NARグランプリ年度代表馬を4度受賞。デビューから7年目で迎えたラストランは2012年の東京大賞典なのでもう13年前になります。レース後に行われたセレモニーはボンネビルレコードとのダブル引退式。多くのファンが競馬場に残り、その勇姿を目に焼き付けていました。

そのせいか、東京大賞典が近づくと最初に思い出すのはフリオーソ。担当していた波多野厩務員の言葉は、期待に応えることへの思いがぎゅっと濃縮されていたように思います。「今までどんな大きなレースでも平常心で臨めたけれど、今回初めてプレッシャーを感じたよ。たくさんの人が引退式での最後の勇姿を待っていてくれる。無事にレースに送り出して、無事にゴールしなくてはと思うとね」。そう語っていたのは、レースを目前にした厩舎でのことでした。
こういったレース結果以外の、例えばその馬に携わった関係者の言葉なども、記しておかないと消えてしまう。競馬は繋がっていくもの。語り継いでバトンを繋ぐことが、取材でお世話になった馬や関係者への恩返しだと思うようにもなりました。
そういえば、ずっと前に受け取ったバトンがあります。インターネットもなく、発信する方法も情報を得るための手段も限られていた時代、競馬初心者だった頃のこと。競馬雑誌に掲載されていた初めてのお気に入り・ダイタクヘリオスの記事にキュンとしたことがありました。
それは「寝る前に自分で寝藁をベッドのように整える」というもの。競走馬の普段の様子を知るすべが今とは比べものにならないほど少なかったあの頃。たったひとことだったけれど、ダイタクヘリオスを思う時には必ず思い出す、心温まるエピソードとなっています。一緒に掲載されていた写真もかわいかった。
さて、2026年は「うま年」。日ごろ撮りためた写真で馬尽くしの年賀状を用意したいところですが、あわただしくてまだ手付かずのまま。そんな中で、ふと思い出したのは、今は亡き大叔母からの年賀状に添えられていた「ハルウララの走りを見ると元気がでますね」というひとこと。大叔母の私への気遣いを感じ、同時に「おばさん、競馬見てるのね」と、思いがけなく優しい風に吹かれたような新鮮な驚きもありました。大叔母のこと、大叔母と同じ時を過ごすことがなかった甥っ子たちに伝えておこうと思います。
