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南関フリーウェイ

阿部典子 南関フリーウェイ

第67回 無観客開催で聞こえる「音」

 新型コロナウイルスによる影響で、無観客開催となって約4か月が過ぎました。JRAの競馬中継や、先日待望の開幕を迎えたプロ野球でも「音」が話題になっていますが、南関東競馬の現場でも、普段は聞こえづらい「現場の音」に気づくことが増えました。

 例えば、6月17日に船橋競馬場で行われた京成盃グランドマイラーズ(SIII)をカジノフォンテン(船橋 山下貴之厩舎)で勝利し、重賞初制覇となった張田昂騎手。前を行くサルサディオーネ(川崎)を、大接戦の末ゴール直前で交わしての優勝。ゴール直後にはっきりと聞こえた「やっと勝った!!」の声は、本来ならば歓声にかき消されていることでしょう。この日で騎手デビューからちょうど7年だった張田騎手。嬉しい重賞初制覇に、ガッツポーズと共に出た叫び。その後、何度もカジノフォンテンに労いの手を添えていた姿も印象的でした。後日、確認のために「ゴールの後、叫んでいたでしょう?やっと勝ったって」と尋ねると、「うん、叫んだ」と笑顔を見せていました。

 また、カラ馬が出たレースでは、ジョッキー同士が「カラ馬行くよ!」「カラ馬来てるよ!」と教え合っている声が生々しく聞こえてきました。普段からそういった声掛けが行われているのだと思いますが、実際にその音声を耳にすると、お互いが安全確保をしながらレースを進めているということがリアルに伝わってきました。

 6月3日に大井競馬場で行われた東京ダービー(SI)を音で振り返ると、これまた印象的なシーンがありました。この日から再開された生演奏、TCK東京トゥインクルファンファーレ。本来なら、発走前の興奮と熱気に満ちた大歓声の中での演奏となりますが、この日は静かなスタンドを前に、出走馬たちの晴れ舞台に華を添えました。

 演奏後、いつも通り笑顔でスタンドに向かって手を振りながら戻っていくファンファーレ隊。その列を、通路横で待機しているカメラマンたちが拍手で送り、手を振り返していました。その時のシーンは、今思い出してもなんだかぐっと来ます。いつもなら、重賞レースの熱や大歓声に押されるかのように、ファンファーレが終わると撮影場所に気がせくことが多いのですが、この日は少し違った雰囲気。ファンの大歓声が無い寂しさを少しでも埋め、馬たちにとって生涯一度の晴れ舞台を盛り上げよう、現場にいる立場でできることをしていこうという、無意識の競馬への愛情や思いやりがそこにあったように思います。

 そんな中、今年の東京ダービーを制したのは、9番人気のエメリミット(船橋 林正人厩舎)。騎乗した山口達弥騎手は重賞初制覇がダービー優勝となりました。ゴール直後、マンガン(2着)に騎乗していた町田直希騎手が祝福の声を掛けながら手伸ばし、山口騎手がそれに応えていたシーンは、まさに競馬界のノーサイド。写真で振り返ると、改めて東京ダービーならではの熱を感じました。

アップ用nf202006pic.jpg 6月10日に川崎競馬場で行われた関東オークス(JpnII)では、レーヌブランシュ(JRA 橋口慎介厩舎)が優勝。南関東2冠牝馬のアクアリーブル(船橋 米谷康秀厩舎)は2着でした。「南関ではトップクラスの牝馬だと思う。この先が楽しみ」と、アクアリーブルに騎乗した矢野貴之騎手。母アスカリーブルに続いての関東オークス優勝は成りませんでしたが、母が成し得なかったグランダムジャパン3歳シーズンでの優勝を決めました。

 振り返りの日程が前後しましたが、東京ダービーの山口達弥騎手も、京成盃グランドマイラーズの張田昂騎手も、いずれも重賞初制覇。取材しながら、ファンの歓声と祝福がここにあれば、と何度思ったことでしょう。現在の無観客開催は、人が応援する時に発する力、熱気というものの存在の大切さを、強く感じる時間にもなっています。やはり競馬場には、たくさんのファンがいなければ。馬や騎手の活躍を心に焼き付ける存在がいなければ。1日も早く、歓声と熱気に満ちた競馬場が戻ってきますように。