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第86回 '人材'も育てていきたい。JRA美浦トレーニングセンター 青木孝文調教師

2022.01.25
 今回は久しぶりに登場、JRA美浦トレーニングセンターの青木孝文調教師にお話を伺いました。2016年に調教師免許を取得し、今年で開業6年目。1981年群馬県出身、昨年40歳になりました。各クラブのHPなどに掲載されている管理馬の近況コメントは「詳しくて嬉しい」と多くの会員の皆さんの間でも好評です。
 「あれは僕が長く話しているのを、クラブのスタッフの方が丁寧に書いてくれているだけですよ」と謙遜していましたが、やはり、出資馬を身近に感じてもらえるような内容を心掛けているそうです。

 そんな青木調教師。昨年、一昨年と二人の師匠との別れがありました。

 ひとりは、ネヴァブションと共に歩んだ厩務員時代からの師匠・伊藤正徳元調教師。その師匠が亡くなった2日後の2020年8月22日・札幌12レースで、青木調教師の管理馬チェアリングソングが、坂井瑠星騎手を背に勝利。チェアリングソングの母父は伊藤調教師が管理したエアジハードということで、弟子として最良の形で恩師の旅立ちを見送りました。

 そして、もうひとりは、昨年春に旅立ったビッグレッドファームの岡田繫幸氏。「当時(2000年頃)としてはものすごく恵まれた労働条件、労働環境のもとで、僕のような若手(当時20代前半)にもたくさんのチャンスをくれました」。青木調教師ご自身がそう語るように、ビッグレッドファーム時代には、2004年のドバイGシャヒーン(G1)で5着、その年のJBCスプリント(当時はGI)を制したマイネルセレクトなどの育成にも携わりました。

 「当時、周りの従業員の方の理解もあって、ああいったチャンスを頂けました。あの頃の経験は、自分が調教師になった時の'引き出し'を限りなく大きくしてくれていて、次の世代を育てるという考えの原点にもなっています。あの頃の僕が周囲にしてもらったことを、今度は僕自身が若い世代にしなくてはという思いがありますね。苦い経験も含めて、たくさんの馬に携わらせてもらえたことが、今に繋がっているのだと思います」。

 そう語ってくださった青木調教師。実はBOKUJOBを始め、人材育成にも強い関心を寄せているそうです。

 「まずは、構えずにチャレンジして欲しいですね。今ブームになっている『ウマ娘』がきっかけでもいい。僕自身、血縁に馬業界で働く人はいなかったし、『ダビスタ』がきっかけにもなりました。馬業界だから何か特別な覚悟を持って入らなくては、ということではないと思います。働くこと、社会に出るという意味ではどの業界も同じ。難しく考えず、好きだと思ったり、興味がある、やってみたいと思ったりしたのなら、ぜひチャレンジして欲しい。そうやって、その世界に入った後で、本当の'覚悟'が生まれる人はいっぱいいるのではと思います」。なるほど、競馬とは無縁の家庭で育った青木調教師からのこの言葉は、競馬界を目指す皆さんの心強い味方になるのではないでしょうか。

 「業界全体として、僕が牧場に入った頃と比較すると、大幅に環境も待遇も改善されています。トレーニングセンターだけでなく、近郊の牧場なども働く条件は良くなっている。まだまだ業界を良くしていくには、若い力が欠かせません。だから、まずは飛び込んでみて欲しい。一生懸命やってみて、向いていないと思ったら、別の道に進むという選択肢もあります」。

 本来なら、競馬界に入りたいと思っている人たちの相談にも乗りたいんですよ、と青木調教師。実は、この時、馬運車の到着を待っている間のインタビューでした。ナイター開催の船橋競馬場ということで、寒風吹く中でしたが、少しでも早く馬の無事を確認したいといった様子で屋外待機。馬運車が入って来ると、元気いっぱいに出迎えていました。

 第86回  その言葉ひとつひとつからも、サービス精神旺盛で話し上手というイメージの奥に宿っている、情熱と'覚悟'が伝わってきた青木調教師。移動時間は読書やオーナーへの連絡メールなどに費やしているとのこと。以前、村上春樹氏の著書の話をしたことがありました。次にお会いした時には、おすすめの本の話もぜひ伺いたいと思います。

 なお、フェイスブックとインスタグラムで実名でのアカウントを開設している青木調教師ですが、それらのメッセージ機能を窓口として、馬の仕事に関心を持っている方の相談に乗りたいと考えているとのこと。ただし、信頼関係のもとで的確な話できるように、「プロフィールを明確にした'実名'の方」限定となります。冒頭でもご紹介した通り、昨年40歳となった青木調教師。'実名'で気持ちを丁寧に伝えれば、その分しっかりと応えてくれるであろうことは、牧場時代からの青木調教師を知っている身として確信があります。そう遠くない未来に、「青木調教師の言葉を力に、この世界に飛び込みました」という誰かと出会う・・・そんな日を待つ、新たな楽しみも増えました。

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