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第119回 『胆振東部地震』

2018.11.19
 まさか、自分が「被災者」になるとは思わなかった。いや、胆振東部地震からそれなりの時間が経った今、改めて震源地に近い場所における被害の大きさを目の当たりにすると、約1日のブラックアウト(大規模停電)を経験しただけの自分は、「被災者」では無かったのかもしれない。
 9月6日の未明に発生した胆振東部地震は、多くの人命や、そこに住む人々の生活の基盤を奪っただけでなく、馬産地にも様々な影響を及ぼした。

 震源地に近い安平町の牧場では建物の被害だけでなく、放牧地や場内の道路の地割れも見つかり、10月上旬の時点でも、まだ完全復旧に至ってない牧場もある。

 最も大きな被害と言えたのは、ライフラインの復旧の遅れだった。大規模な地滑りが起こった厚真町内では浄水場が損壊。安平町でも水道管の破裂により、生活用水が使えるまでかなりの時間を要したことは、全国のニュースなどでも報道された。その一方で日高地域の日高町、平取町、浦河町でも、この震災による断水はしばらく続いていた。また、人や馬に供給される水を貯留タンクでまかなっていた門別競馬場では、そのタンクとパイプが破損。所属馬の管理に支障をきたしただけでなく、競馬場内も水を必要とする施設が多かったこともあり、7日間にわたって開催を中止することになった。

 今回の地震で誰もが想像し得なかったのが、ブラックアウトであろう。道内では最大となる電気を供給していた苫東厚真発電所が、地震の影響で停止。供給バランスの乱れに端を発したことで、まさにドミノ式に全道が闇に包まれたが、供給量が震災前に近い水準まで戻った時ですら、鉄塔や電柱の倒壊が要因となり、復旧に時間を要した場所も多かった。

 今回の地震による被害に際し、多くの牧場関係者から被害についての話を聞くに当たり、改めて気付かされことが水の重要性であり、そして、多くの牧場では馬の飲み水に井戸水を採取していたという事実だった。

 これまでに、様々な取材で井戸ポンプのある牧場は見てきてはいたが、それを電動でくみ上げていたという事実は、この件に関する取材をするまで全く気付かなかった。

 古くからの知り合いである牧場の方も、停電で最も困ったことは水の確保だったと言う。「近くで牛をやっている方が発電機を持っていたので、そこから水をくみ上げて牧場まで運んでいました。馬の命を預かっている以上、こうしたトラブルも見越して、発電機は常備しておかなければとも思いました」。度重なる停電、そして東日本大震災で電気の重要性を感じていた牧場の中には、既に発電機を準備していたり、今後、レンタルという形で発電機を備えていこうとする動きも見られている。とはいっても、次はいつ起こるとも分からない災害のために、準備ができないという関係者もいるに違いない。

 幸いなことに、本震の数日から1週間以内に発生すると言われていた、同規模の余震が起こる可能性は、時間が経つにつれて低くなったものの、それでも震度4クラスの余震は今もまだ続いている。先日もエリアメールが鳴り響いたときには思わず身構えてしまったものの、揺れはそれほど大きくは無かったときには、安心を通り越して、「心臓に悪い...」とさえ思ってしまった。

 エリアメールと言えば、北海道の南海上を台風24号が通過した10月1日、新ひだか町の北海道市場でオータムセールが行われていた時になる。夜から降り続いていた強い雨の影響で、展示やせりの開催時間も変更されただけでなく、町内を流れる古川も氾濫危険水位を超え、一帯には避難勧告も出ていた。

 その展示の最中に、エリアメールが一斉に辺り一面に鳴り響いた。すぐ近くには知り合いの牧場スタッフと、「大きな揺れじゃないといいですね」と恐る恐るスマホを見たところ、そこには「新ひだか町で避難解除」と書かれていた。

 エリアメールではこの情報も流れるのか、と思った矢先に、至る所から「地震じゃないのか!」との声も聞こえていたが、やはり誰もが地震に対して過敏になっているのだろう。

 最後に、この胆振東部地震では、(株)ジェイエスに務められていた長田学さんが亡くなっている。同社で様々な業務と平行する形で、フューチュリティの編纂もされていた長田さん。個人的にもお会いする度に、「いつか、フューチュリティにも執筆してくださいね!」と笑顔で声をかけてくださった姿が印象に残っている。訃報を知ったときには信じられない思いがしたし、あれほど馬たちや生産界に対して、真摯に接してきた方の命を奪った今回の震災を心から憎く思った。この場を借りて、長田さんのご冥福をお祈りします。
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