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第34回 荒尾競馬廃止

2011.10.12
 新聞等で既報の通り,今年12月23日を以って荒尾競馬が廃止となることがほぼ決まった。
 8月25日付け熊本日日新聞に『赤字続く荒尾競馬,本年で廃止 荒尾市が方針』という記事が掲載され,当日行われた競馬組合臨時議会,その後の関係者との意見交換会でも,前畑荒尾市長は存廃に関する明言を避けた。そのため,一気に廃止確定のムードとなった。

 そして9月5日,荒尾市9月定例市議会において,本年度限りの廃止が正式表明された。

 荒尾競馬は1928年から開催され,移転などなく開設時より現在の場所で行われ,実に83年の歴史を誇る。「荒尾競馬のあり方検討会」資料と新聞記事によると,荒尾競馬は1992年度のピーク時には約159億円もの売得を上げたが,昨2010年度には約49億円まで減少。また,1998年度からは赤字に転落し,2010年度には約13億6000万円の累積債務を抱えるに至った。2010年度単体では13年ぶりに4300万円の黒字を達成したものの,「レジャーの多様化等もあり,今後財政に貢献する事は困難」と判断された。

 世間の反応は「いきなり廃止は酷い」とか,相変わらず定番だったが,我々からすればそれほどの「いきなり感」はなかった。2009年に学識経験者などから構成される『荒尾競馬のあり方検討会』の答申も「09~11年度の収支状況,将来の見通しをもって判断するのが妥当」との提言により,11年度中に結論を出すと明言していたし,10月には来年度の開催の認可申請を行わなければならないから,続けるも引くも9月定例市議会がヤマ場であったのだ。

 また,今年2月に競馬組合の会計に公営企業会計を導入し公営企業化した。この段階で「廃止の準備をしているんだろう」と,とある主催者職員からサジェスチョンを受けた。

 実際,市議会で一般質問が始まると,2009年の秋頃から「廃止のための財源」として10年償還の地方債である「第三セクター等改革推進債」(通称:三セク債)の可能性を探っていたことが明らかとなった。競馬組合の経営改善を進める一方で,廃止後の清算を見据えていた。

 荒尾競馬組合は熊本県と荒尾市で構成されているのだが,1955年の組合設立時に県と市が交わした覚書では,⑴利益余剰金は荒尾市の収入,⑵不足金は荒尾市が補填する,となっていた。これまで累計91億3,200万円が財政に繰り入れられたが,それはつまり廃止も荒尾市独自で賄わなければならないということだ。

 この地域最大の産業であった三井三池炭鉱が1997年3月30日に閉山となり,荒尾競馬も下降の一途を辿ることになったが,それだけでなく,荒尾市交通局(累積赤字約6億円。2005年に譲渡,解散),荒尾市民病院(2007年度決算で累積赤字約41億円,不良債務約21億円。公立病院特例債で債務圧縮し現在経営再建中)という「赤字事業」を抱え,約24億円ある財政調整基金を投入しても競馬組合清算には足りず,一般会計から支出すれば市自体「早期健全化団体」転落の恐れもある。かつて準用団体転落を辛くも回避した経験があるだけに,「三セク債」にメドが立った今がまさに,「競馬のやめ時」となったわけだ。

 廃止が現実的なものとなってからは,馬主側からは反対意見も出ているが,厩舎側は寂しいとは言いつつも,これまでの相次ぐ賞金,各種手当のカットにより完全に疲弊していて,むしろ廃止を受け入れている感じが強い。
 これまでの廃止場の流れからも,今後舞台は補償金(市側は直接の雇用関係はないので,見舞金としている)を巡っての条件闘争に移っていくだろう。再就職といっても,騎手は既に「草刈場」と化しているが,調教師や厩務員は一部を除き,馬の世界からは足を洗うことになるのではないだろうか。馬もまた然りか。

 競馬場自体は来年3月まではJRAや他場の場外発売を行うとのことだが,既に「更地にした後の土地利用」で盛り上がっているのが切ない。

 荒尾競馬場がなくなることで九州には佐賀競馬場と,JRA小倉競馬場の2場となったが,佐賀競馬場も基金は底を突き累積赤字を抱えている。また,生産面でも多くの九州産馬を抱える荒尾が無くなると,与える影響は大きいだろう。
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