北海道馬産地ファイターズ
第24回 中国競馬
2010.12.13
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「入郷而随郷,入俗而随俗」という中国語がある。日本語での意味は「郷に入れば郷に従え」となるのだが,「郷」と「入」いう文字が入っているので,ニュアンスからも文字の持つ意味がイメージしやすいのは,日中の両国で使われてきた漢字ならではと言えよう。
HBAの定期市場では今年最後となるオータムセールに,中国人実業家の張月勝さんが,中国人としては初めて日本の競走馬市場に参加。1歳馬18頭を総額4,735万円で購入していったことは,センセーショナルなニュースとして,次の日の日刊紙などにも取り上げられた。
その時,記者会見に応じた張さんは,「自分が建設する競馬場で,この日に購入した馬を出走させたい」と話していたのだが,その言葉に首をかしげた方も多かったのではないだろうか。実際,筆者の頭の中にも「?」マークが幾つも浮かんでいたのだが,次の日には講演会と情報交流会が新ひだか町のホテルで開催されるというので,中国競馬の勉強がてら参加してみることにした。
この日,会場に足を運んだ生産関係者は約80人。4日間にわたって行われたせりの後ということもあり,馬の移動や所用などで牧場を離れられなかった生産者も多かったのかもしれない。
机の上には当日の議事内容が書かれた資料が載っており,そこには中国競馬産業の現状がまとめられていた。まず,日本の競馬と中国の競馬が大きく違う点,それは中国では刑法により賭博が禁止されているということである。つまり,中国の競馬では,馬券の販売ができないのだ。
ちなみに馬券を発売出来ない中国で行われているのは,ドバイで行われているようなイベントとしての競馬であり,賞金は地方の行政やスポンサーが出している。それでも,競馬(中国では速度競馬)は盛り上がりを見せており,競馬国際交流協会が確認しているだけで,中国国内には16ヶ所の競馬場が存在しているという。
しかもその施設は草競馬レベルの競馬場ではなく,北京の通順競馬場にはサラブレッドが2,000頭繋養されており,競馬場内には繁殖牝馬も繋養されているという。隣に座った知り合いの生産者の話では,ガラス張りの巨大なスタンドや,ホームストレッチにはオーロラビジョンも設置された,とても立派な競馬場もあるらしい。
ちなみに草競馬レベルの競馬場も含めると,中国全土では300ヵ所を超える競馬場があるともされており,省によっては二千年以上の歴史を持った競馬が行われているという話には驚かされた。
そもそも中国では「馬の祖先は龍である」との言い伝えもあるように,古くから馬と人との関わりは強かった。馬同士の速さ比べという形で行われてきた競馬が,競馬場で行われる「速度競馬」となり,そして今,率先して他国からサラブレッドを導入する流れへと変わってきたのだろう。ちなみにオーストラリアからは既に300頭を超える頭数のサラブレッドが輸入されており,アメリカやフランスなどでも競馬関係者を招待するなどして,様々な交流を図っている。
では,なぜに張さんが,今回のセールで日本馬を購入したかということだが,それは競馬国際交流協会と,中国馬業協会の長きにわたる交流に拠るところが大きい。この講演会で中国競馬の実情を語った,中国馬業協会常務副秘書長を務める岳高峰氏は,幾度となく競馬国際交流協会や,競馬の交流に努めた関係者への礼を述べていた。岳さんと交流の深い張さんだからこそ,生産管理技術研修生として様々な牧場を視察してきただけでなく,せりにも参加してくれたのだろう。
確かに馬券を中心として発展した,日本の競馬というカテゴリーしか知らないわれわれからすれば,自分で競馬場を作り,その中で所有馬の競馬をさせることもある中国の競馬は,異質に見えるかもしれない。でも,それは張さんや岳さんが,日本の競馬やそのシステムを知った時の違和感とも一緒なはずだ。
今回,張さんはその違和感を跳び越えて,馬を購入するところまできてくれた。講演会の最後に岳さんは「ぜひとも中国に競馬を見に来て欲しい」とも語っていた。ならば次はわれわれが「入郷而随郷,入俗而随俗」の気持ちを,行動に移す段階に来ているのではないだろうか。
HBAの定期市場では今年最後となるオータムセールに,中国人実業家の張月勝さんが,中国人としては初めて日本の競走馬市場に参加。1歳馬18頭を総額4,735万円で購入していったことは,センセーショナルなニュースとして,次の日の日刊紙などにも取り上げられた。
その時,記者会見に応じた張さんは,「自分が建設する競馬場で,この日に購入した馬を出走させたい」と話していたのだが,その言葉に首をかしげた方も多かったのではないだろうか。実際,筆者の頭の中にも「?」マークが幾つも浮かんでいたのだが,次の日には講演会と情報交流会が新ひだか町のホテルで開催されるというので,中国競馬の勉強がてら参加してみることにした。
この日,会場に足を運んだ生産関係者は約80人。4日間にわたって行われたせりの後ということもあり,馬の移動や所用などで牧場を離れられなかった生産者も多かったのかもしれない。
机の上には当日の議事内容が書かれた資料が載っており,そこには中国競馬産業の現状がまとめられていた。まず,日本の競馬と中国の競馬が大きく違う点,それは中国では刑法により賭博が禁止されているということである。つまり,中国の競馬では,馬券の販売ができないのだ。
ちなみに馬券を発売出来ない中国で行われているのは,ドバイで行われているようなイベントとしての競馬であり,賞金は地方の行政やスポンサーが出している。それでも,競馬(中国では速度競馬)は盛り上がりを見せており,競馬国際交流協会が確認しているだけで,中国国内には16ヶ所の競馬場が存在しているという。
しかもその施設は草競馬レベルの競馬場ではなく,北京の通順競馬場にはサラブレッドが2,000頭繋養されており,競馬場内には繁殖牝馬も繋養されているという。隣に座った知り合いの生産者の話では,ガラス張りの巨大なスタンドや,ホームストレッチにはオーロラビジョンも設置された,とても立派な競馬場もあるらしい。
ちなみに草競馬レベルの競馬場も含めると,中国全土では300ヵ所を超える競馬場があるともされており,省によっては二千年以上の歴史を持った競馬が行われているという話には驚かされた。
そもそも中国では「馬の祖先は龍である」との言い伝えもあるように,古くから馬と人との関わりは強かった。馬同士の速さ比べという形で行われてきた競馬が,競馬場で行われる「速度競馬」となり,そして今,率先して他国からサラブレッドを導入する流れへと変わってきたのだろう。ちなみにオーストラリアからは既に300頭を超える頭数のサラブレッドが輸入されており,アメリカやフランスなどでも競馬関係者を招待するなどして,様々な交流を図っている。
では,なぜに張さんが,今回のセールで日本馬を購入したかということだが,それは競馬国際交流協会と,中国馬業協会の長きにわたる交流に拠るところが大きい。この講演会で中国競馬の実情を語った,中国馬業協会常務副秘書長を務める岳高峰氏は,幾度となく競馬国際交流協会や,競馬の交流に努めた関係者への礼を述べていた。岳さんと交流の深い張さんだからこそ,生産管理技術研修生として様々な牧場を視察してきただけでなく,せりにも参加してくれたのだろう。
確かに馬券を中心として発展した,日本の競馬というカテゴリーしか知らないわれわれからすれば,自分で競馬場を作り,その中で所有馬の競馬をさせることもある中国の競馬は,異質に見えるかもしれない。でも,それは張さんや岳さんが,日本の競馬やそのシステムを知った時の違和感とも一緒なはずだ。
今回,張さんはその違和感を跳び越えて,馬を購入するところまできてくれた。講演会の最後に岳さんは「ぜひとも中国に競馬を見に来て欲しい」とも語っていた。ならば次はわれわれが「入郷而随郷,入俗而随俗」の気持ちを,行動に移す段階に来ているのではないだろうか。