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第202回 『津波警報 PART Ⅱ』

2025.10.20

 「浦河町ではコンビニがどこも開いてなく、食料品や飲料水も買うことができない」


 カムチャツカ半島東方沖で起こったマグニチュード8.8の地震。「緊急安全確保」が発令された浦河町へ取材のために移動していた自分にとって、取材先の関係者からもたらされた、その情報は衝撃的だった。


 2018年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震。筆者の住む札幌市内を含めた北海道全域で、大規模停電(ブラックアウト)しただけでなく、スーパーやコンビニの商品があっという間に無くなった。


 浦河町内のコンビニが開いていないとなれば、スーパーは勿論、ドラッグストアも営業していない可能性が高い。その時は千歳市内で車を走らせていたが、道中のコンビニで何とかなるだろうと思っていたところ、その安易な期待はあっさりと裏切られる。


 海岸からかなり離れた上厚真町のローソンなら開いているかと思いきや、まさかの一時休業の張り紙があった。ヤバいと思いながら鵡川町へと向かうと、コンビニやスーパーは全て一時休業となっていた。ガソリンの残量も心もとないと思っていたものの、町内のガソリンスタンドはどこも開いていない。


 だが、幸いなことに日高町内へと入ると、門別競馬場にほど近い場所にあるローソンと、隣のガソリンスタンドは営業していた。混みあっていたガソリンスタンドで燃料を満タンにすると、ローソンで飲料水を購入する。


 その後、日高門別インターチェンジから日高道へと乗り込むべく車を移動させていったが、その道中は営業をしているドラッグストアもあったが、セブンイレブンやイオンには車が駐まっていなかった。


 国道237号線を曲がり、日高門別インターチェンジへと向かう。すると、途中のセイコーマートの駐車場に入っていく車があった。


 先ほど入ったローソンでは売り切れていた、弁当やおにぎりなども、まだ商品棚に並んでいた。思わず手にとってはみたものの、自分のような町外から来た人間が、ここで買い物をしていいのかという抵抗感はあった。


 店の外に出ようとした時に、門別町内の牧場関係者から、「これからどこにいくの?」と話しかけられた。これから取材で浦河に行くことになりました、と答えを返すと、「自分も浦河から戻ってきたところだけど、道路も普通に走ることができたよ」と向こうの状況を教えてくれる。その牧場関係者も通ってきた日高道を浦河方面へと向かい、その後は道道の新冠平取線、静内浦河線と山沿いの道を車で走っていく。


 津波警報発令後は、避難をしてきた車で渋滞したとの話もあったが、思った以上に交通量は少なかった。ただ、その道沿いにあるセイコーマートは、看板の電気こそついているものの営業しておらず、改めてこの先で食料を調達するのは不可能だと確信した。


 セイコーマートの駐車場に車を駐めていると、先に浦河のホテルに入っていた編集者から電話が入った。浦河町の指定緊急避難場所に指定されていたそのホテルは、避難をしてきた町民で溢れかえっていたという。


 ただ、自分がホテルに到着した頃には、自宅へと戻られた方も多かったのか、駐車場に駐まっていた車の台数は減っていた。そして手続きをしたフロントでも朝食だけでなく、その日の夕食も出せると告げられた。


 次の日の朝も津波警報は継続されていたものの、牧場の場所は安全が保たれる場所であり、取材は予定通りに進められていった。


 その際には事前連絡をくれた、取材先の関係者に会うこともできた。色々と知らせてくれてありがとうございます、と伝えると、「心配をしましたが、無事に辿り着けて良かったです」とねぎらいの言葉をかけてもらった。


 海沿いを走る国道235号線も津波警報が出ている間は通行止めが続いていたものの、津波注意報に切り替えられてからは通行が可能となっていた。取材時間も夕方まで延びたこともあって、札幌の帰り道は国道や高速道路に、何の規制もかかっていなかった。


 結果的には何もなかったとはいえども、それでも、「緊急安全確保」が発令されていた場所に行くべきだったのかということに関しては、間違っていたといわれても仕方がない。


 その一方で個人の判断ではどうしようもできなかったのも事実であり、実際に道中で多少のアクシデントがあったことからしても、「緊急安全確保」が解除されてからの行動でも良かったのではと思えてくる。


 津波注意報が出されている海岸沿いの国道235号線を走っていると、橋のたもとが増水しており、それが海から押し寄せる波であることが確認できた。それを見て、少しだけ身震いがした。
(次号に続く)

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