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第40回 『スマートスーツ』

2012.04.16
 スマートスーツという名前だけでもかっこいい。「新世紀エヴァンゲリオン」にちょっとかぶれた者としては、パイロットが着用していたプラグスーツを彷彿させるし、「機動戦士ガンダム」世代だった者としても、着用すれば普通の人より3倍の動き(ザクとシャアザクのおおよその比較による(笑))ができるような気がする。
 といっても、実際にスマートスーツを着用しても超人にはなれない。ただ、スマートスーツは我々の仕事を軽減し、そして長く労働しても疲れが溜まらないという夢のスーツでもある。スマートスーツによってもたらされる効果とは、ズバリ「軽労化」。読んで字のごとし、労働を軽減する効果なのだが、なぜ着用しただけで仕事が楽になるのか、いまいちピンと来ない方も多いことだろう。

 そんな自分がスマートスーツの存在を知ったのは「日本ウマ科学会」での研究発表でのこと。当時はゴムベルトと背中と腰を結ぶワイヤーを電動モータで引っ張り、作業に必要な筋力を補うという効果があったと記憶にある。だが今、スマートスーツはまた新たな段階に入っているらしい。

 その名は「スマートスーツライト」。名前からしてもスマートスーツの3倍の効果が、いや(笑)、「ライト」という名称からも軽くなったことが分かるが、実際にどのような夢のスーツで、そしてどう変わったのかを確かめるべく、北海道大学に潜入してきた。この日、北海道大学の情報科学研究科棟で行われていたのが「軽労化研究会」。元々は、2007年に北海道大学大学院の田中孝之准教授が中心となって行っていた「スマートスーツ研究会」が、技術的な広がりを見せる中で、農業、介護、土木作業など、様々な分野での実用化を目指して発展したのが「軽労化研究会」である。

 第4回を数える今回は、スマートスーツライト着用時における筋活動のデータや、負担軽減効果などを実験を元に発表。その優位性や更なる取り組みなどが、研究室の学生によって発表された。

 スマートスーツとスマートスーツライトの大きな違いとは、腰についていた電動モータが無くなったこと。その代わりに筋力を補助するのは、なんとゴムの伸縮力だという。

 と、ここまで馬のことに全く触れてはいないが、日本ウマ科学会でも発表されていたように、実はスマートスーツライトは競馬の現場でも実際に使われているのだ。

 今回の発表では実際にスマートスーツライトを着用して、騎乗調教を行っている育成牧場のスタッフからの意見を取り入れたサンプルも目にすることができた。その騎乗調教用のスマートスーツライトだが、まるで体を包み込むかのように弾性材となるゴムが張り巡らされている。とはいってもがんじがらめではなく、腰と肩を安定させるコルセットに、ゴムが付いたと言うべきだろうか。

 補助力の調整はベルトの引っ張り具合によって行われ、また、体幹が安定するという効果も働く。この作用をより騎乗姿勢に近づけたのが、騎乗調教用のスマートスーツライトなのだ。

 実はこのスマートスーツライトを着用して、騎乗に臨んでいるのは49歳の調教スタッフ。なんと騎乗歴30年という超ベテランでもあるが、自分が知る限り、この年齢まで第一線で馬に跨っているスタッフは見たことがない。

 なぜかというと、騎乗者にとって不治の病となっている腰痛が、馬に乗り続けることを阻むからである。鞍上で前屈みの姿勢をとり続けながら、馬に負荷をかけないようにバランスを保ち、しかも下からの反動も受け止めなくてはいけないと書いただけでも、どれだけ腰に負担がかかる仕事かということが、自分の腰をさすりたくなるほどに理解できる。

 実は自分の知り合いにも、腰痛が元で馬に乗ることをあきらめた調教スタッフがいる。そのスタッフは牧場で働くことを目標にして、高校在学中から乗馬クラブへと通い、見事に夢を叶える。調教スタッフとして勤めてからも、確かな技術と真面目さが買われて、扱いが難しい馬にも乗せてもらえるようになった矢先、腰痛を発症。馬に乗れないのなら牧場を辞めようとまで考えたというが、現在は中期育成のスタッフとして頑張っている。

 だが、このスマートスーツライトを着用すれば、再び馬に跨ることも不可能ではないかもしれないのだ。
 (次号に続く)
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