南関フリーウェイ
第5回 「頑張りまずる」 13歳マズルブラスト引退
2015.04.29
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春は出会いと別れの季節と言いますが、先日、南関東競馬にとって大きな存在が長い競走馬生活に終止符を打ちました。
「頑張りまずる」の刺繍入りメンコ姿や四つ葉のクローバーマークでもお馴染みだった13歳のオープン馬マズルブラスト。2004年のデビューから11年間、長距離を中心に活躍し、多くのファンを魅了してきました。
ラストランは4月15日、地元船橋での「船橋ナイターカウントダウン!オープン」。パドックでは現担当の飯田厩務員、元担当の多田厩務員と共に周回。荒れ模様という予報が出ていたこの日の天候でしたが、その時間帯には春らしい透明感のある陽射しが差しこみ、マズルブラストの馬体を美しく照らしていました。
多くの皆さんに見送られて馬場入りしたマズルブラストでしたが、返し馬で違和感を覚えた川島正太郎騎手が馬場入口まで引き返し、管理する川島正一調教師の判断の下、競走除外に。
出走できなかったことは残念でしたが、無理せず、今までの歳月を無にすることなく、無事に引退を迎えられたことで、周囲には一種のほっとした雰囲気も漂っていたように思います。
出走するか否かの判断を待つ間、動かずじっと馬場に目を向けていたマズルブラストの姿も、見守る人々の胸を打ちました。
マズルブラストのレース以外での思い出として、多田厩務員の「もだわら」の話があります。ある日厩舎に顔を出すと、麻紐を一定の長さに切って、それを束ねている多田さんの姿が。「'もだわら'を作ってるんだよ。ほんとはね、藁で作るの。これで馬体を磨くとツヤツヤになるから。マズルもそうやって磨いてきたけど、今使っているのが古くなっちゃったから新しいのを作っているところ」と。そして「古いやつにはマズルの毛がついているんだよね。ずっと前からの毛だね。」
その時の様子から、多田さんのマズルブラストへの深い愛情と、職人として馬に携わるということへの誇りを強く感じたのを、今でもよく覚えています。
「写真撮らせてください」と言うと「古いやり方を笑われちゃうから(笑)」とかわされてしまいましたが、マズルブラストが長く現役でいられたことは、自身のポテンシャルの高さに加え、関わった皆さんのこういった地道で丁寧な時間の積み重ねがあったからと言えるでしょう。
刺繍入りメンコとクローバー模様も話題となった飯田厩務員とのコンビですが、洗い場での様子では、会話が聞こえてきそうなほど表情豊かなマズルブラストがいたことも忘れられないシーンです。愛嬌いっぱいのパッツン前髪姿であくびをしたり、飯田厩務員が持つスポンジをパクっとかじって遊んでみたり。そんなおだやかな時間も、マズルブラストにとってリラックスできるかけがえのないひとときだったことでしょう。
ラストラン当日、最終レース終了後に行われた引退セレモニーで、飯田厩務員と共にファンの皆さんの前に行き、挨拶した姿。普通なら、危ないよと止められてしまいそうな行動かも知れませんが、ごく自然に、まるでそうすることが当たり前だとマズルブラスト本人も知っているかのような、あたたかく心が通うシーンだったように思います。
それは日常の中で、飯田厩務員とマズルブラストが紡いだ信頼関係が創りだした、究極の形だったのかも知れません。
引退セレモニーには、JRA所属となった内田博幸騎手や戸崎圭太騎手、今野忠成騎手、騎手時代に騎乗した張田京調教師も勝負服姿で参加。そこで張田調教師が粋な計らいをして周囲を沸かせる一幕も。オーナー関係者や騎手、ファンの皆さんが一体となってマズルブラストを送り出す、とてもあたたかい時間となりました。
マズルブラストは一旦故郷の社台ファームに戻り、ゆっくり疲れを癒すとのこと。その後、新しいお仕事が決まるそうです。
写真の1枚は、4月21日の朝の様子。八重桜咲く厩舎の一角にある、住み慣れたキュートなお部屋での表情です。
マズルブラストのこれからに、たくさんのHAPPYが訪れますように!
「頑張りまずる」の刺繍入りメンコ姿や四つ葉のクローバーマークでもお馴染みだった13歳のオープン馬マズルブラスト。2004年のデビューから11年間、長距離を中心に活躍し、多くのファンを魅了してきました。
ラストランは4月15日、地元船橋での「船橋ナイターカウントダウン!オープン」。パドックでは現担当の飯田厩務員、元担当の多田厩務員と共に周回。荒れ模様という予報が出ていたこの日の天候でしたが、その時間帯には春らしい透明感のある陽射しが差しこみ、マズルブラストの馬体を美しく照らしていました。
多くの皆さんに見送られて馬場入りしたマズルブラストでしたが、返し馬で違和感を覚えた川島正太郎騎手が馬場入口まで引き返し、管理する川島正一調教師の判断の下、競走除外に。
出走できなかったことは残念でしたが、無理せず、今までの歳月を無にすることなく、無事に引退を迎えられたことで、周囲には一種のほっとした雰囲気も漂っていたように思います。
出走するか否かの判断を待つ間、動かずじっと馬場に目を向けていたマズルブラストの姿も、見守る人々の胸を打ちました。
マズルブラストのレース以外での思い出として、多田厩務員の「もだわら」の話があります。ある日厩舎に顔を出すと、麻紐を一定の長さに切って、それを束ねている多田さんの姿が。「'もだわら'を作ってるんだよ。ほんとはね、藁で作るの。これで馬体を磨くとツヤツヤになるから。マズルもそうやって磨いてきたけど、今使っているのが古くなっちゃったから新しいのを作っているところ」と。そして「古いやつにはマズルの毛がついているんだよね。ずっと前からの毛だね。」
その時の様子から、多田さんのマズルブラストへの深い愛情と、職人として馬に携わるということへの誇りを強く感じたのを、今でもよく覚えています。
「写真撮らせてください」と言うと「古いやり方を笑われちゃうから(笑)」とかわされてしまいましたが、マズルブラストが長く現役でいられたことは、自身のポテンシャルの高さに加え、関わった皆さんのこういった地道で丁寧な時間の積み重ねがあったからと言えるでしょう。
刺繍入りメンコとクローバー模様も話題となった飯田厩務員とのコンビですが、洗い場での様子では、会話が聞こえてきそうなほど表情豊かなマズルブラストがいたことも忘れられないシーンです。愛嬌いっぱいのパッツン前髪姿であくびをしたり、飯田厩務員が持つスポンジをパクっとかじって遊んでみたり。そんなおだやかな時間も、マズルブラストにとってリラックスできるかけがえのないひとときだったことでしょう。
ラストラン当日、最終レース終了後に行われた引退セレモニーで、飯田厩務員と共にファンの皆さんの前に行き、挨拶した姿。普通なら、危ないよと止められてしまいそうな行動かも知れませんが、ごく自然に、まるでそうすることが当たり前だとマズルブラスト本人も知っているかのような、あたたかく心が通うシーンだったように思います。
それは日常の中で、飯田厩務員とマズルブラストが紡いだ信頼関係が創りだした、究極の形だったのかも知れません。
引退セレモニーには、JRA所属となった内田博幸騎手や戸崎圭太騎手、今野忠成騎手、騎手時代に騎乗した張田京調教師も勝負服姿で参加。そこで張田調教師が粋な計らいをして周囲を沸かせる一幕も。オーナー関係者や騎手、ファンの皆さんが一体となってマズルブラストを送り出す、とてもあたたかい時間となりました。
マズルブラストは一旦故郷の社台ファームに戻り、ゆっくり疲れを癒すとのこと。その後、新しいお仕事が決まるそうです。
写真の1枚は、4月21日の朝の様子。八重桜咲く厩舎の一角にある、住み慣れたキュートなお部屋での表情です。
マズルブラストのこれからに、たくさんのHAPPYが訪れますように!