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第97回 受け継がれている「幸運を願う文化」

2022.12.23
 今回は、新年がより良い年になるようにという願いを込めて、「受け継がれてきた文化的な側面、縁起担ぎ」について書いていきたいと思います。
 競馬は勝負の世界。勝てるように、無事にレースから戻れるようにと、いろいろな「縁起」が担がれ、目に見えるもの、目には見えないもの、その形はさまざまです。

 まずはじめは、「日取り」にまつわる縁起です。厩舎では入厩と退厩が繰り返されていますが、この時に引用されるのが、大安や友引などで知られる「六曜」。以前、取材先で「その日は先勝だから、入厩するには良いね」「大安だからその日にしようか」という会話を耳にしたことがありました。

 もちろん、すべて六曜に合わせてということではなく、可能な限りということだと思いますが、馬の無事と勝利、行く先での幸せを願う気持ちを垣間見たひとときでした。

 この六曜は鎌倉時代に中国から伝わったといわれており、冠婚葬祭の際など、形を変えながらも古くから生活に取り入れられてきた伝統的なもの。競馬の世界でも、六曜は大切に受け継がれて来た文化と言えそうです。

 暦とは別に、「祈り」や「願い」が形や行動となっている光景もお馴染みです。馬房の入り口に'お守り'が飾られていたり、'おり鶴'が掛けられていたり。「寝藁をほぐす時には、いち、に、さん、しって4回にしないようにしている。4は縁起が悪いから」と話してくれた厩務員さんもいました。

 厩舎を出発する際に、塩を馬の脚に振りかけたり、トモの部分に盛ったりするのを目にすることもあります。塩(海水)には穢れや邪気を払う効力があるとされる話が中国から伝わったそうですが、平安時代にはすでに盛り塩の風習が広まっていたとのこと。1000年以上も前から受け継がれているものが、すぐ目の前で行われていると思うと、競馬に携わってきた先人たちの存在がより鮮明に、そして身近になったようにも思えてきます。

 また、縁起ものとして動物のモチーフも多く取り入れられています。船橋競馬場の岡林光浩厩舎では、'ふくろう'の置物が花壇に置かれ、馬たちの日々を見守っていますが、ふくろうは「不苦労」や「福来郎」という当て字で表すこともでき、また、夜行性で夜目が利くことから「見通しが明るい」とされ、縁起の良い鳥として親しまれているようです。
  第97回 受け継がれている「幸運を願う文化」の画像 そういえば、川島正行厩舎では本物のフクロウを飼育していたことがありました。「フクちゃん」と呼ばれていたフクロウ。やって来た時はまだ幼く、ふわふわで「ススキの穂で作った民芸品みたい!」と思うほどのかわいさ。その後、厩舎の一角の大きな鳥小屋で飼育されていましたが、成鳥となったフクちゃんは、やはり肉食の猛禽類。そのオーラがちょっと怖くて、近くを通るときにはいつも足早に通り過ぎた思い出があります。

 また、取材中に「そこ、見てください♪」と厩務員さんに言われて洗い場の地面を見てみると、日光浴中の小さなトカゲの姿が。「デビュー戦の前に縁起がいいなと思っていますよ。応援に来てくれたのかな」と笑顔で語っていた通り、トカゲは「幸運をもたらす」「金運アップ」の象徴とされています。また、「無事に帰る」にちなんで、交通安全や旅行業界でも広く愛されているカエルのアイテムも厩舎でよく見かける祈りの形です。

 余談になりますが、記事に写真を掲載する時、馬の脚の部分が切れないようにしています。これは、他の方とも共感し合ったちょっとした縁起担ぎです。

 こうしてざっと見渡してみても、人馬の無事を祈る気持ちが、形となり、行動となり、今日もどこかで行われている競馬のシーンのあちこちに織り込まれていることに気づかされます。幸せを願う人の気持ちや祈りが込められ、受け継がれてきたものだから、無理のないようにしながら大切にしたい。そして、それは、競馬に限らずに、とも思います。迎える新しい年が、より良いものとなりますように。
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