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第47回『馬術と馬道 Part2』

2012.11.16
 前号に引き続き「馬術と馬道」について書く前に、その「馬道」という言葉に気付かせてくれた「サンクスホースデイズ」について触れないわけにはいかないだろう。「サンクスホースデイズ」とはその名の通り、「馬に感謝する日」のことを指す。馬に感謝すべき対象とは、日々、馬に携わる仕事をしている人たち。その中には競馬マスコミである自分も含まれるのだろう。また、身体や心などにハンディキャップを持ちながらも、馬と接することで前向きな気持ちになれた方々は、我々以上に感謝の心を持っておられるに違いない。
 「サンクスホースデイズ」では、馬が持つ様々な魅力を乗馬などの実技を通して伝えていくだけでなく、障がいを持っておられる方が、どのように馬と接していくかについての講演も行われている。第3回目を迎えた今回の会場となった浦河町の乗馬公園は、障がい者の乗馬療法が行われている「浦河べてるの家」とも近いことがあり、今回で20回目を迎える「べてるまつり」との共催という形で行われた。

 日曜日、月曜日と2日間にわたっての開催となった「サンクスホースデイズ」には、地域の方々をはじめとする多くのサポートがあった。その中には馬術でオリンピックにも出場した、広田龍馬さんと白井岳さんといった馬術選手。また月曜日には前日までレースに騎乗していたJRAの騎手たちも、トークショーや乗馬体験に参加していた。

 そしてイベントの際には呼び込みを行ったり、会場設営にも自ら率先して動いていたのがJRAの角居勝彦調教師。閉会後、角居調教師とお話をさせてもらったのだが、改めて「サンクスホースデイズ」に対する真摯な気持ちを伝えられた。この場を借りてだが、馬に感謝する者として、今後も微力ながらでも協力させていただきたいと思う。

 JRA騎手を招いたそのトークショーの中で、馬術選手にしておくのは勿体ないと思えるほど、軽妙なトークを操っていた広田さんの口から出たのが「馬道」という言葉だった。このトークショーでは会場から騎手や馬術選手への質問も受け付けていたのだが、互いに馬に対するアプローチが異なっているために、返ってくる答えも全く違うことが多々見られた。しかし、いつしか司会的な立場に立っていた広田さんは馬術、競馬という概念に共通する答えを返したあとで、馬に関わる人は全て「馬道」で繋がっているとまとめてみせたのだった。

 これは様々な「柔術」の中の一つである「嘉納流柔術」が理論化され、社会的に認知されただけでなく、国際的にも普及していった「柔道」の道筋とは、言葉の発端が異なっている。「馬道」という言葉が現在の日本語において違った意味であるのは重々承知だが、まず「馬道」があり、その分岐として競馬や馬術、そしてホースセラピーや乗馬療法などで障がい者の方の手助けにも繋がっていくとするなら、これほど素晴らしい言葉はない。

 そう思うと「サンクスホースデイズ」は、まさに「馬道」なのではという気もしてくる。それぞれの立場は違えど、馬を通して集まった人が、会場に足を運んだのは紛れもない事実であり、それぞれが馬に感謝の気持ちを持っている。「サンクスホースデイズ」の発展は競馬だけでなく、乗馬、ホースセラピーなど、馬に関わる様々な事象の発展にも繋がっていく。乗馬を通して競馬に入り込んだり、騎手のトークショーを見に来た人が、障がい者の乗馬についてもっと深く知ろうという相互作用も生み出すのではないだろうか。

 以前のコラムにも書いたことだが、社会には競馬に対する抵抗感を強く持っておられる方が多いのも事実である。しかし、走っている馬の姿にはシンパシーを覚え、馬券を購入しなくとも、開催期間中は競馬場に足を運んでいる自分の友人もいる。しかし「馬道」がまずあり、経済的かつ文化的な発展の流れの中で競馬が存在すると説明できるのなら、多少なりとも競馬に対する抵抗感は薄れてくるはずだ。

 今後も「サンクスホースデイズ」には、馬に感謝する人たちが、様々な分野において広く存在しているということをアピールしてもらいたいし、そして馬に携わる仕事をしている我々も、日々、馬への感謝の気持ちを忘れることなく、できることなら「サンクスホースデイズ」への協力を呼び掛けていきたい。

 あとは「馬道」という言葉とその意味を、広く認知してもらうにはどうすべきかなのだが、とりあえず読み方は柔道を見習って「ばどう」としておいて、その意味の浸透については、「サンクスホースデイズ」の更なる発展が示してくれるはず、としておこう。
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