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第157回 『マイスター・ハイスクール PARTⅢ』

2022.01.18
 本年度から北海道静内農業高校が指定校となったマイスター・ハイスクール事業で、産業実務家教員に就任した、JBBA静内種馬場の中西信吾氏。多忙な中、電話取材という形で時間を取っていただけた。
 まずはマイスター・ハイスクール事業における、産業実務家教員に就任した件について話を聞かせてもらったが、その前段階から中西氏と北海道静内農業高校とは、深い繋がりがあった。

 「㈲谷岡牧場さんがサクラトキメキを教材馬として寄贈した際に、JBBAにも協力して欲しいとの話をいただき、当時、静内種馬場に繋養されていたジェネラス(IRE)を配合しました。より深く関わるようになったのは、2011年から始まった構造化授業が契機となります。生徒を静内種馬場に招いて、当て馬から妊娠鑑定までの一連の流れを見せるだけでなく、自分たち職員が高校に出向く形で、年間に40時間ほどは繁殖の授業も行うようになりました」(中西氏)

 その2年後にはJBBAに加えて、JRA日高育成牧場でも、構造化授業へ協力をしていくようになる。それがマイスター・ハイスールのベースともなっていった。「こうした取り組みを見た文部科学省の方が、どうしてJBBAや日高育成牧場がここまで協力してくれるのか?と不思議に思ったそうです。ただ、様々なカリキュラムが行われていく中、JBBAとJRAの見解として、職員が生徒への講義を行うのは構わない。ただ、本来は生徒により近い存在である、学校の先生たちの指導時間を増やすべきなのでは?とも言われました」(中西氏)

 ただ、馬に関する授業を行う際に、教える側が馬の知識を知らないまま、マニュアルだけで授業を進めていくのは問題があると中西氏は、4年前から先生たちを日高育成牧場へと招き、そこで馬学の授業に参加してもらうように取り計らったという。そう考えていくと、中西氏が産業実務家教員となるのは必然かつ適任だったとも言える。ただ、そこまでのアウトラインが引かれていたにもかかわらず、中西氏は今年のサマーセールで自分に名刺を渡したそのすぐ後、マイスター・ハイスクールの運営委員会において、指導内容の見直しを進言した。

 「根本的に考えたのは、生徒たちがこの学校に通う3年間という時間でした。その時間を有効に使いながら、我々がどんなことを教えていけるのか?生徒たちにどんな目標を持たせていくのかなどを改めて考え直すだけでなく、馬や競馬を理解しているJRAやHBAから委員を招き入れ、そのメンバーと共にスケジュールを再考しました」(中西氏)

 体制が整ったのはサマーセールから約1か月後となる9月、マイスター・ハイスクールは正式にスタートする。授業の内容は従来よりも遥かに専門的になっただけでなく、予算も付けられるようになったことで、課外授業も増えていった。

 JBBA静内種馬場の研修においては、手術室や入院厩舎にいた馬を見せただけでなく、遊佐繁基場長を講師としての授業も行った。

 また、JRAからの支援も受ける形で、生徒たちを開催終了後の札幌競馬場にも出向いた。そこでは普段は立ち入ることができない、厩舎エリアなどを見せただけでなく、馬場にも入れるなどして、競馬の世界には様々仕事があることを感じ取ってもらった。

 「日高育成牧場に行った際には、全ての生徒が馬に触れるようにしました。知識を広げていくのもそうですが、馬が好きになる、馬への興味が膨らんでいく、そして馬が面白いと思ってもらえるような授業をしたいと思っていました。それは委員会でも目標としていたテーマであり、授業もカリキュラムを詰め込んでいくのではなく、まずは馬に接してもらおう。それで興味が湧いてくれば、生徒たちが自分たちの話を受け止めやすいのではと思っていました」(中西氏)

 改めて中西氏の話を聞いていると、現在、静内農業高校で授業を受けている生徒たちが羨ましく思えてくる。前回のコラムでも書いた話となるが、自分の知り合いで、今年静内農業高校に入学した女の子は、まさに3年間にわたって、学生生活の傍らで様々な馬の知識を学んでいけることにもなるのだろう。

 ただ、ここで問題となってくるのが、原則的に3年間と定められている、マイスター・ハイスクールの指定期間である。今年、入学したばかりの1年生は、まさに3年の時間をまるまる使いながら、馬の知識を学んでいけるが、来年以降入学してくる生徒たちは、途中で指定期間が終わってしまう。

 「この点に関して、指定期間は3年ですが、延長も可能であり、北海道も存続の意向で、文部科学省と話をしてくれていると聞いています」と中西氏は教えてくれた。
(次号に続く)
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