第5コーナー ~競馬余話~
第169回 「背景」
3月16日に中山競馬場であった第74回スプリングS(GⅡ、芝1800㍍)は2番人気のピコチャンブラック(牡3歳、美浦・上原佑紀厩舎)が優勝し、重賞初制覇を飾るとともに皐月賞への優先出走権を獲得した。
2023年に開業した上原調教師にとって、これが延べ19頭目の出走でJRA重賞は初勝利。昨年のスプリングSで2着になったアレグロブリランテの雪辱を果たした。23年目の石橋脩騎手は23年12月のステイヤーズS(アイアンバローズ)以来1年3か月ぶりとなるJRA重賞25勝目だった。
ピコチャンブラックは24年7月に福島でデビューした。スタートから先頭に立つと芝2000㍍を逃げ切り勝ち。上がり3ハロン35秒0、最後の1ハロン11秒3という末脚で2着に7馬身差をつけた。2戦目は10月のアイビーS(東京、芝1800㍍)。のちに重賞勝ちをするマスカレードボールに1馬身1/2差をつけられて2着になった。3戦目が暮れのGIホープフルS(中山、芝2000㍍)だった。序盤は3番手を走っていたが、外側から何度も競りかけられる厳しい展開が応えたのか13着と大敗した。スプリングSは3か月ぶりの3歳初戦だった。12頭立ての9番枠からスタートすると4番手につけて2コーナーを回った。向こう正面の後半でキングスコールがまくって来ると、これに合わせてスパート開始。3コーナーで先頭に立つ強気の競馬でそのままゴールまで押し切った。2着フクノブルーレイクとはクビ差だったが、長くいい脚を使ったピコチャンブラックのスタミナが目立つ一戦となった。
終わってみれば、ピコチャンブラックはスプリングSを勝つべくして勝ったような血統背景を持っていた。
父キタサンブラック、母トランプクイーンという配合にはスプリングSを勝つための要素がいっぱい詰まっていた。父キタサンブラックは15年のスプリングS優勝馬。その父ブラックタイドもまた04年のスプリングSを制覇した。祖父、父、ピコチャンブラックとほぼ10年おきに父子3代にわたるスプリングS優勝を達成した。
母トランプクイーンの父はネオユニヴァースだ。03年に皐月賞と日本ダービーの2冠に輝いたネオユニヴァースもまたスプリングSの優勝馬であった。トランプクイーンの母は名牝の誉れ高いバレークイーン(IRE)である。1996年のダービー馬フサイチコンコルドを産んだ。バレークイーンが06年に出産したのがアンライバルド(父ネオユニヴァース)だ。09年の皐月賞馬になるアンライバルドは前哨戦のスプリングSを優勝した。ピコチャンブラックは父、父の父、母の父、母の兄と周囲にスプリングS優勝馬がひしめく血統である。
トランプクイーンは10年にバレークイーンが出産した16頭目で最後の産駒だ。競走成績は5戦未勝利。13年9月のレースを最後に現役を引退し、繁殖牝馬になった。15年の繁殖牝馬セールに出場したのを、(株)チャンピオンズファームが落札した。(株)チャンピオンズファームに移動して、7頭目の産駒がピコチャンブラックである。
ピコチャンブラックの優勝は、同じキタサンブラックを父に持つクラシック最有力候補の評価を上げることになった。最有力候補とはクロワデュノール(牡3歳、栗東・斉藤崇史厩舎)である。今年になってからの3歳重賞の結果を見てみると、それがよくわかる。クロワデュノールに敗れたことのある馬たちが次々と重賞勝ちを収めているのだ。
きさらぎ賞を制したサトノシャイニング(牡3歳、栗東・杉山晴紀厩舎)は24年11月の東京スポーツ杯2歳Sでクロワデュノールの2着だった。ホープフルS組も同様だ。3着だったファウストラーゼン(牡3歳、栗東・西村真幸厩舎)は弥生賞ディープインパクト記念で優勝。11着だったマスカレードボール(牡3歳、美浦・手塚貴久厩舎)は年明け初戦の共同通信杯を快勝した。そしてホープフルSで13着だったピコチャンブラックがスプリングSを制した。
デビューから3戦3勝。GⅠとGⅡのタイトルを持つ昨年のJRA賞最優秀2歳牡馬はホープフルSからぶっつけで皐月賞に臨む予定だ。再びクロワデュノールがライバルたちを封じるのか、はたまた3歳になって成長を見せたライバルたちが2歳時の雪辱を果たすのか。第85回皐月賞は4月20日、中山競馬場の芝2000㍍で行われる。