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第170回 「ハイジ」

2025.05.09

 2025年4月13日に阪神競馬場で行われた第85回桜花賞は、3番人気のエンブロイダリー(牝3歳、美浦・森一誠厩舎)が優勝した。勝ちタイムは、やや重馬場で1分33秒1(芝1600㍍)だった。


 手綱を取ったジョアン・モレイラ騎手は24年のステレンボッシュに続く桜花賞2連覇を達成した。桜花賞を2連覇した騎手は過去に福永洋一、武豊、田原成貴、安藤勝己、クリストフ・ルメール、川田将雅の6人がいた。モレイラ騎手は7人目の記録達成だった。


 エンブロイダリーは新種牡馬アドマイヤマーズの産駒で、母はロッテンマイヤーという血統だ。新種牡馬の産駒による桜花賞制覇は1984年のグレード制導入以降では、93年トニービン(IRE)=娘ベガ、99年アフリート(CAN)=プリモディーネ、11年ディープインパクト=マルセリーナ、16年ヴィクトワールピサ=ジュエラー、18年ロードカナロア=アーモンドアイ、20年エピファネイア=デアリングタクトに続く7例目になった。


 エンブロイダリーはその父系から高いマイル適性を受け継いでいるようだ。父アドマイヤマーズは16年生まれ。2歳から4歳まで現役生活を送り、通算13戦6勝。13戦のうち10戦はマイル戦で18年の朝日杯フューチュリティS、19年NHKマイルC、同年香港マイルと3つのGIタイトルはすべてマイル戦だ。史上初めて香港マイルを3歳で制したのもアドマイヤマーズだった。


 アドマイヤマーズの父はダイワメジャーだ。ダイワメジャーは2歳から6歳まで走り、28戦9勝の成績を残した。GIは皐月賞、天皇賞・秋、マイルチャンピオンS(2勝)、安田記念の5勝。マイルでの強さが際立っていたが、皐月賞や天皇賞・秋のように2000㍍の距離でもトップに立った。


 ダイワメジャー産駒はアドマイヤマーズを含め8頭がJRA・GIを制している。このうちカレンブラックヒル(NHKマイルC)、メジャーエンブレム(阪神ジュベナイルフィリーズ、NHKマイルC)、レーヌミノル(桜花賞)、レシステンシア(阪神ジュベナイルフィリーズ)、セリフォス(マイルチャンピオンシップ)、アスコリピチェーノ(阪神ジュベナイルフィリーズ)、これにアドマイヤマーズを加えた7頭がマイルGIで勝っている。エンブロイダリーがマイル戦の桜花賞で見せた強さは父系の影響力だと考えられる。


 桜花賞でクビ差の2着になったアルマヴェローチェ(牝3歳、栗東・上村洋行厩舎)は父ハービンジャー(GB)、母ラクアミという血統だ。母ラクアミの父はダイワメジャーである。第85回桜花賞の1、2着はどちらも祖父(父方、母方)にダイワメジャーを持つという共通点があった。


 順調ならエンブロイダリーは牝馬2冠を目指してオークスに向かうことになりそうだ。父系から抜群のマイル適性を受け継いだエンブロイダリーが果たして東京競馬場の芝2400㍍でどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。それは母系の底力にかかっていると思われる。


 エンブロイダリーの3代母はビワハイジだ。95年に新馬、札幌3歳S(当時)、阪神3歳牝馬S(現阪神ジュベナイルフィリーズ)と3連勝し、3歳時には日本ダービーに挑んだ逸材だった。98年1月のレースを最後に現役を引退し、繁殖牝馬になると素晴らしい結果を残した。12頭の産駒を出産し、このうち6頭がJRAの重賞勝ち馬になった。年齢順に挙げるとアドマイヤジャパン、アドマイヤオーラ、ブエナビスタ、トーセンレーヴ、ジョワドヴィーヴル、サングレアル。6きょうだいが重賞勝ち馬という例はほかにない。繁殖牝馬ビワハイジだけが持つ記録だ。エンブロイダリーの祖母アーデルハイト(父アグネスタキオン)はこのきょうだいの1頭だ。1戦未勝利で引退したアーデルハイトの2番目の産駒が牝馬ロッテンマイヤーだ。クロフネ(USA)を父に持つロッテンマイヤーは中央競馬で14戦3勝の成績を残した。繁殖牝馬になって2番目に産んだのがエンブロイダリーである。


 「アルプスの少女」はスイスの小説家が書いた物語だ。「ハイジ」は主人公の愛称で、「アーデルハイト」は主人公の洗礼名で本名だ。「ロッテンマイヤー」というのは物語の中に登場する厳格な女性家庭教師だ。ビワハイジ→アーデルハイト→ロッテンマイヤーとアルプスの少女の流れをくむエンブロイダリー。どんな女の子に成長するのか。今後が楽しみだ。

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