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第125回 『ホース・スピーク』

2019.05.20
 前回、前々回と1月17日から21日まで、横浜赤レンガ倉庫1号館とワールドポーターズで開催された、ホースメッセについて取り上げてきた。
 その節は「あぶない刑事」ネタを書き過ぎたと、近藤捜査課長に叱責されるタカとユージのように反省するばかり(まだ引きずっております)。今回もホースメッセを導入としてこのコラムを書き始めた理由とは、そこで発売されていた「ホース・スピーク」という、馬とのコミュニケーション方法が書かれた出版物がテーマとなっているからである。

 「ホース・スピーク」の副題には、「これからの人と馬の対話ガイド」とも書かれている。著者はプロのアニマルトレーナーで、馬のリハビリ専門家でもあるSharon Wilsie氏と、ガーデニングの専門家で、自身も乗馬を所有しているGretchen Vogel氏。

 勿論、英文はグーグル翻訳に頼りっぱなしの自分が、英語で書かれた原本を読めるわけが無い。この著書を監訳してくれたのが、前回と前々回のコラムでも紹介させていただいた、ホースクリニシャンの宮田朋典氏と、Sharon Wilsie氏から実際に教えを受けただけでなく、日本人で初めてHorse Speak Trainingの修了証を授与された宮地美也子さん。馬のスペシャリストである2人の表現を、更に分かりやすく訳してくれたのが、これまでに数々の乗馬や馬術に関する書籍を訳してきた、二宮千寿子さんだった。

 馬に直接接する仕事から離れて早20数年。しかも、乗馬などまるでしていない体型(含む体重)をしている筆者には、まるで必要の無い出版物にも思えてくるかもしれない。しかしながら、取材で接した馬たちとのコミュニケーションを更に図るだけでなく、ライフワークでもある「耳立て」に関して、何かしらのヒントが見つかればと興味が沸いた。

 A4判の208ページで構成された「ホース・スピーク」はオールカラーで構成されており、写真やイラストもふんだんに使われている。しかも、技術書に有りがちな堅苦しさもないので非常に読みやすい。

 会場で手に入れた「ホース・スピーク」をぱらぱらと広げながら歩いていた時、社台スタリオンステーションのコーナーに、監訳を務めた宮田氏の姿があった。

 前回のコラムにも書いたように、宮田氏とは旧知の仲であり、社台スタリオンステーションで馬のしつけを行うようになって以降は、顔を合わせる頻度も増えてきた。

 本を買いましたよ、宮田氏に話すと、「そうでしたか!ありがとうございます」と快活な表情を浮かべながら握手を求めてくる。その際に、「この本から耳立てへのヒントが掴めればとも思っているのですが、もし、写真を撮るために、社台スタリオンステーション繋養種牡馬の耳をこちらに向けるとするなら、どんなアプローチをしますか?」と尋ねてみた。少し考えた宮田氏は、「まずは馬に対して、自分の存在を認めさせることでしょうね。そのためには、馬の視界に入ることが必要となります」と自分も音を鳴らす前に行っている方法論と一緒だったことに、どこかホッとした。その後は脚の位置を決めるハンドラーと馬との関係性や、そこに耳を立てる人間が、どのタイミングで指示(音)を出すべきかなどについても会話を交わしたが、最後には、ベストな耳立てをお互いに求道していきましょう、と強い握手を交わした。

 その後、宮田氏は吉備高原サラブリトレーニングのブースに、角居勝彦調教師が来たと聞きつけ、挨拶へと向かっていく。自分もツーショット写真を撮るべく、カメラを片手にその後を追いかけていったのだが、その時、ブースの前でたまたま話す機会があった女性の方が、偶然にも宮地さんだった。

 宮田氏と同様に、宮地さんにも耳立てに対する質問を向けていくと、「耳の動きが、どのような感情を示しているかに書かれているページもありますし、他の行動についても詳しく説明されているので、それが耳立てに生かせると思いますよ」と言葉を返してくれた。

 その後は宮田氏のグランドワークにも参加し(詳しくは前回のコラムを参照)、身をもって馬とのコミュニケーションを学んだのだが、家に帰ってから「ホース・スピーク」を熟読して、自分が目指すべきは「耳立て」でなく、むしろ「耳向け」なのではないかと思うようになってきた。

 そう考えを改めてからの「耳向け」を、実は今年の2歳馬取材から行っている。現時点におけるその成果と課題については、次回のコラムで取り上げたい。次回も行くぜ!いやいや、「あぶない刑事」このネタも3回目となると、さすがにしつこいですよね(笑)。
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