南関フリーウェイ
第109回 祝福と労いのもとで ふたつの「門出」
11月30日、今年2回目の船橋記念(SIII)が行われました。2024年の新ダート競走体系への移行に伴い、毎年1月に行われていたこのレースは11月の施行に。出走条件も4歳以上から3歳以上へと変更になりました。
勝利したのは、この日が引退の花道となった6歳牝馬・キモンルビー(父コパノリチャード)。御神本訓史騎手を背にスタートを決めてハナを奪い、そのまま後続を寄せ付けないままで2着馬に3馬身差をつける圧巻の逃げ切り。重賞4勝目で有終の美を飾りました。
この日の午後、「引退だからといって特別なこと(馬装など)はしないでおこうかな。何かいつもと違うことをして、何か起きてしまうのも嫌だし。普段通りで競馬に行きたい」と語っていた担当の小倉勝利厩務員。レース後、キモンルビーを引きながら口取り撮影を待つ表情からは、安堵の色もうかがえました。
「気持ち良く送り出せるよ。時計も良かったし、今日の競馬は集大成。無事に帰って来てくれて本当に良かった。今日は生産者の西村牧場さんも来てくれている。これからは故郷に帰っていいお母さんになって欲しいね」。勝利の喜びと安堵の気持ちが溢れる笑顔でそう語ったのは、キモンルビーを管理する川島正一調教師。船橋記念はナイキマドリード、キャンドルグラス(2勝)、キモンルビー(2勝)で、通算5勝目となり、船橋記念といえば川島厩舎、と思わせるほどの存在感を示しました。
「去年の習志野きらっとスプリントの2着が悔しくてね。どうしても勝ちたくて、引退を1年延ばしてここに至りました。初年度はコパノリッキーを予定しています。リッキーもスピード馬を出すので、キモンルビーには合うんじゃないかなと思いますよ」と語ったのは、キモンルビーのオーナー、Dr.コパこと小林祥晃氏。
JRAでデビューし、高知で勝ち星を重ね、南関東で大輪の花を咲かせたキモンルビー。それぞれの場所で手から手へと受け継がれてきたバトンは最良の形で故郷に渡り、次の時間へと繋げられました。
この日はもうひとつの引退にも注目が集まりました。23年7か月のジョッキー生活にピリオドを打ち、調教師としてのスタートラインに立った田中力(たなかつとむ)騎手。ラスト騎乗となったのは7Rのシンキングファーザ (佐藤裕太厩舎)で、結果は4着。少し微笑みながら馬に手を添える仕草、関係者からの労いの声に立ち止まって頭を下げる姿からも、田中騎手の人柄が伝わってきました。
騎乗を終えて検量室へと向かう田中騎手を、バレットの皆さんや西村栄喜騎手、仲野光馬騎手、佐藤裕太調教師が拍手で迎え、「おつかれさま」と声を掛けるシーンもあたたかく、胸を打つ光景でした。
「まだ引退する実感は沸いていないですね。これから徐々に沸いてくるのかな。最初は体重が重くて減量に苦労しました。つらかったですね。挙げればきりがないくらいたくさんの思い出の馬がいます。開業したら、ファンの皆さんに応援していただける強い馬づくりを目指して頑張りたいです」(田中力騎手)。
師匠の岡林光浩調教師は「ツトムは真面目な性格。頑固で真っすぐなところが良いですね。騎手時代には東京の芝のレースに乗せたことがありました。なんとしても1回、中央の芝での騎乗を経験させてやりたくて。本人は入れ込んでいたけどね(笑)」と笑顔。
そんな岡林調教師からプレゼントされたのはおしゃれな帽子。慣れないお品をぎこちなく取り扱う田中騎手に「こうやって持つんだよ」と、師匠がアドバイスするほほえましいシーンも。12月の船橋開催では、この帽子を着用し、業務にあたる田中力調教師の姿も見られました。
なお、岡林厩舎からは、渡邊貴光調教師、張田京調教師、故左海誠二調教師に続く4人目の調教師誕生。そして新たに、石崎駿騎手が所属騎手(千葉県騎手会からの移籍)となっています。
さて、迎える2024年、新たな地方競馬の名場面が楽しみです。このまずはカレンダーでレース日程を確認しておかなくては。