南関フリーウェイ
第114回 船橋競馬場 新スタンドフルオープン
4月29日、船橋競馬場の新スタンドがフルオープンの日を迎えました。
2020年冬から大規模リニューアル工事がスタート。スタンドの改修は東西に分けて進められ、新スタンドAは2022年にオープン。今回の新スタンドBのオープンにより、座席数1791席(そのうち特別観覧席は114、来賓席は104)、鉄筋コンクリート5階建てへと生まれ変わりました。
収容人数はこれまでの約1万人から約6000人とコンパクトになりましたが、ファミリーやグループでの観戦も楽しめるボックス席、靴を脱いでゆっくりできるフラットシートの導入など、バラエティ豊かな空間になっている点も注目を集めています。
2階にはベビールーム、各階にバリアフリートイレを設置。もちろん、一般のトイレも快適な空間に。かつては女性来場者の方から「競馬場のトイレは古いしなんだかちょっと・・・」と、近隣の商業施設まで行くという話も耳にしたことがありました。安心と明るさ、清潔さ、本当に大切です。
新スタンドにはテラスもあり、馬場側からは幕張のビル群、パドック側からは東京スカイツリー方面が望める開放的な雰囲気。夏の海風や宵の空、あたたかな色をした冬の夕陽など、船橋という土地ならではの美しい景観も楽しめそうです。
また、馬場前の人工芝を敷いたエリアでは、ピクニック気分でキッチンカーのグルメを楽しむファミリー層の姿も。ここは4コーナーを周り、ゴールに向かう馬群の迫力が目の前で観戦できる場所。鞭の音や騎手の掛け声など、レースの熱を間近で感じられる、新しいおすすめスポットといえるでしょう。
スタンド完成後も、周辺やバックヤードの工事が進められている船橋競馬場ですが、今後は道路を挟んで向かい側に位置するららぽーとTOKYO―BAY側に入場門を設け、敷地を一部開放するなどのパーク化を目指すこととなっています。コンセプトは「街との共生」。
ここで改めて船橋競馬場の歴史を振り返ってみると、今回のリニューアル工事は先人たちが描いた夢の実現であったことも伺えます。
船橋競馬場の前身は柏競馬場。毎年5月に行われる「かしわ記念(JpnI)」はこの柏競馬場にちなむもので、今年はシャマル(JRA)が優勝。当日は大雨が降るあいにくの天候でありながらも売り上げレコードを更新、新スタンドのもとで新たな歴史を刻む1戦となりました。
柏競馬場について調べると、柏の名士・吉田甚左衛門氏の存在が浮かび上がってきます。吉田氏の「柏のレジャーランド化、賑やかな町にしたい」という思いのもとで開設された柏競馬場。その第1回の開催は1928(昭和3)年5月でした。東洋一と言われる設備を誇り、内馬場にはゴルフ場を併設するなど、大きな賑わいを見せていたそうです。
しかし、軍国主義の台頭で吉田氏の夢はついえます。戦後、競馬場は再開したものの往年の勢いは取り戻せず、1950(昭和25)年に船橋競馬場へその任務を引き継ぐと、1952(昭和27)年に閉鎖。現在、柏競馬場の跡地はコンフォール柏豊四季台になっています。
柏競馬場の名残は船橋競馬場の中にも。以前、厩舎地区にある馬頭観音にお参りした時のこと。そこに「吉田氏」と刻まれている石があるのに気が付きました。その馬頭観音は柏競馬場にあったものだとのこと。船橋競馬場はこれまでずっと、柏競馬場と共に馬がいる時間を紡いできたのですね。
先人たちが思い描いた景色、果たせなかった夢や願い。それらを受け継ぎ「街との共生」を掲げて新たな歴史を刻んで行く船橋競馬場。新スタンドでは「人生初馬券だ」「馬が目の前!よく見える!」など、新しい風を感じる会話も聞こえてきました。そんな中、「ファンは楽しむために競馬場に来てくれるのだから、勝っても負けても楽しい場所じゃないとね」と言っていた、恩人でもある今は亡き新聞記者の方の言葉を思い出しました。この風景を見たらなんて言うかな。
なお、船橋競馬場は来年開設75周年を迎え、同競馬場では2010年以来2度目となるJBC競走の開催地として選定されています。百聞は一見にしかず。海風が心地よい季節を迎える船橋競馬場で、新たな魅力を楽しんでいきましょう。