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第80回 『UMAKOプロジェクト』

2015.08.20
 函館競馬場で行われている、ビギナーズセミナー(初心者向けの競馬教室です)講師の中休み。教室となっているクーラーの効いている部屋から、炎天下の屋外に出て、ふれあいパドックに歩を向けていくと、馬車がもの凄いスピードで走っていた。
 一瞬、「まさか、御者に何かあったのでは?」と思い、馬車に乗っていた子供たちを助けるべく、とりあえず、締めていたネクタイを緩めて馬車に飛び乗ろうと思ったのだが、よく見ると御者の席には手綱を持った乗馬スタッフがいる。ネクタイを持ったまま固まっている自分の姿を見かねたのか、知り合いのJRA職員の方が、「馬車は1週目は遅く、そして2週目は早く動かしているんですよ」と教えてくれた。なあんだ、と思った後に、それなら自分も乗ってみたい!とだだをこねようとも思ったのだが、残念ながら列に並んでいたのはお子さんばかり。「保護者です!」と言い張るのは問題がありそうなので、おとなしくその場から立ち去ることにした。

 ふれ合いパドックを振り返ると、電動遊具が絶賛稼働中だった。しかもそこには、お昼時のハセガワストアのやきとり弁当を購入する大人たちに匹敵するほどの、子供たちの行列ができている。再び固まった自分の姿を見た、先程のJRA職員の方が、「この遊具に無料で乗れることは、意外に知られていないんですよね。でも、最近ではリピーターになってくれている子供たちも増えているみたいですよ」と教えてくれた。この日、子供たちが函館競馬場に多く詰めかけていた理由には、お昼休みに行われたヒーローショー(&握手会)のせいもあったのだが、それでも天気のいい週末は、例年よりも子供たちの姿を多く見かけたような気がした。

 一応、道南生まれであり、子供の頃から函館には足を運んでいた自分だが、競馬場以外でどんな娯楽があったかな?と思うと、意外と思い出が浮かんでこない。

 函館には函館山の麓の函館公園に「こどものくに」というレトロ感満載の遊園地や、大型動物をあまり目にすることがない「ミニ動物園」こそあるが、それ以外で子供が楽しめる施設は無かったように思える。自分自身、「こどものくに」や「ミニ動物園」よりも、親と一緒にデパートに行く方が楽しかったし、夏の遊びと言えば、目の前に広がる海での海水浴がメインだったりもした。

 とはいっても、まだ水が冷たい6月中から海に入るようなことはしなかったし、7月初旬でもためらいがちであった。しかも、子供たちだけで海に行くことを、大人が許してくれるわけもない。函館近郊(含む道南)の子供たちは、今も昔も時間を持て余しているのだろう。

 そこで函館競馬場である。遊具だけでなく、緑の広場内にあるふわふわドームや電動カートまでも無料!馬車やポニー試乗会を通して、馬との交流を図れることで、お子様の情操教育にも打って付け!まさに家族連れで来るにはもってこいの施設とも言える。

 今年の函館競馬場では子供たちの姿が多く見られたことからしても、それがお父さんやお母さんたちにも浸透しつつあるのでは?という気がしてならない。ここはライターとして、当の本人の子供に、「今日で競馬場は何回目?そして君が競馬場に来たいと言い出したのかな?」とインタビューを申し込もうと思ったのだが、間違いなく警備員が飛んできそうだったので、たまたま居合わせた高校時代の同級生(男、5歳の娘と一緒)に話を聞いてみた。「競馬場に来るのは久しぶりだよ。でも、子供たちの遊べる場所があるのはいいな。ところで浩平、馬券儲かってる?(以下略)」との答えをもらった。ちなみに娘さんも遊具で遊んできたばかりとのことで、お父さんの馬券が当たれば、また、函館競馬場に連れてきてもらえるはずだ。

 現在、競馬場では「UMAJOプロジェクト」といった、女性を競馬に取り込む試みが行われているが、子供向けの大がかりなイベントはあまり聞いた事がない。それでも、現在の競馬ファンで、「子供の頃、競馬場に連れてこられた」という人はそれなりにいるはずであり、そこで楽しい場所だと思ったからこそ、今も競馬を続けているのだろう。

 函館競馬場もそうだが、「遊び場」を提供することで、子供を呼び込むことは、将来の競馬ファンの獲得に繋がってくる気がする。なんならプロ野球選手のように、開催に来ている騎手たちが、休みの日に学校訪問を行い、そこで騎手に会った子供たちに「将来の夢は騎手!」と思わせることができたとするなら、競馬に携わる人や馬に対する尊敬の念も生まれてくる。その名も「UMAKOプロジェクト」。

 JRAの皆さん、いかがでしょうか?
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