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第95回 『頑張れ!東北の馬産地』

2016.11.18
 9月中旬、東北に取材旅行をしてきた。個人的には、ラフィアンターフマンクラブの会報誌で原稿を書かせていただいていた頃に、GⅡフィリーズレビューを優勝したマイネレーツェルを生産した、青森・佐々木牧場を取材に行って以来の東北入りとなる。
 その際は牧場にアポイントを取っていただいただけでなく、八戸フェリーターミナルからの送迎までも買って出ていただいた、青森県軽種馬生産農業協同組合の松橋康彦参事無しに、取材は成り立たなかった。

 競走馬市場では名鑑定人である一方、普段は大変いじりがいのある松橋参事だが、いざという時には大変に頼りになる方だということを、この場を借りて広くアピールしたい(笑)。

 今回の取材は東北の馬産地以外にも、東日本大震災で多大な被害に遭った、岩手県の宮古市まで足を伸ばしたこともあり、松橋参事の力を借りることなく、自分でレンタカーをピックアップして移動を行った。

 宮古市やその近辺での取材が終わった17日には、スプリングファームの代表で、青森県軽種馬生産農協青年部長でもある佐々木拓也氏からお誘いをいただき、今シーズンから青森で繋養されているウインバリアシオンのお披露目会に行ってきた。お披露目といっても、ウインバリアシオンを見に来ているそのほとんどが、現役時代からのウインバリアシオンファン。新幹線や車を使い、お披露目会が行われた八戸家畜市場まで足を運んだ約120名の来場者の中には、なんと九州からやってきたという熱心なファンの姿もあった。

 今シーズン、ウインバリアシオンは35頭の繁殖牝馬を集めた。これは青森県内で繋養されている種牡馬では最多の数字であり、それだけ県内の生産者がウインバリアシオンに期待を寄せている表れと言える。また、北海道からの配合申し込みもあったそうで、来シーズンは、今シーズンを上回る配合頭数も期待できそうだ。

 お披露目会の後は、共通の知人の紹介もあって、数年ぶりに佐々木牧場に足を運ぶこともできた。個人的には全くアポ無しの訪問だったが、佐々木秀一代表は自分の顔を見るなり、「久しぶりですね」と声をかけてくれて、以前にお会いした時と同じように、地元で作られた美味しいリンゴジュースを差し出してくれた。

 知人が生産馬を見たいと話したことで、一緒に放牧地へついて行ったが、途中の馬道がえぐれたようになっているのに気づいた。「先日の大雨で、ここが水の通り道になってしまったんですよ」と佐々木代表は話し出す。

 北海道内に甚大な大雨被害をもたらした台風10号は、先に上陸した東北地方にも様々な傷跡を残した。青森県内でも農林水産関係の被害額は10億円を突破。幸いなことに競走馬関係の被害はそれほど聞かれていないというが、佐々木牧場のように修繕にかなりの手間と費用がかかる牧場は、他にも多数あったに違いない。

 その後、佐々木代表からは県内における、競走馬生産の現状についても話を聞かせてもらったが、日高とも共通する後継者不足の問題や生産頭数の減少などを案じていた。

 実はウインバリアシオンのお披露目の際にも、現地の生産関係者から同様の話を聞いていた。生産頭数の減少は八戸市場への上場馬減少だけでなく、馬を専門とする獣医の数も減るなど、青森県内における競走馬産業全体の衰退にも繋がっているという。

 その現状を考えると、青森産馬としては04年のエスプリシーズ(川崎記念(GⅠ))以来のJpnⅠ制覇を果たしたキョウエイギア(ジャパンダートダービー)は、地元の生産関係者にはとても嬉しいニュースとなったはずだ。

 浅い競馬知識しか持ち合わせていない筆者は、青森を含めた東北の馬産が栄えていた頃をほとんど知らない。しかし、東北で生産された競走馬の血統を見ると、昭和初期からの名血を大事に育ててきたことが見て取れる。また、近年ではそうした名血に活力を取り戻すべく、北海道のスタリオンまでサイアーズランキング上位の種牡馬を配合に来る生産者も増えてきている。

 その状況下で種牡馬入りしたウインバリアシオンは、競走実績、血統ともに東北の馬産にとって救世主となる存在であり、東北の生産者の皆さんもそれを信じているからこそ、35頭もの繁殖牝馬が集まったのだろう。

 苫小牧からフェリーを使えば、身体一つなら八戸までなんと5,000円。思った以上に安く、足を運びやすい場所でもあるのに改めて気づかされた。今後も機会を見つけては、東北の馬産地の様々な場所を訪ねてみたいと思っている。東北の生産者の皆さん、そして松橋参事!その際は夜遅くまでよろしくお願いします!
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