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北海道馬産地ファイターズ

村本浩平 北海道馬産地ファイターズ

第137回 『それはゾンビ映画のように...』

 取材の後、その日は交流重賞が行われていたのに気づき、国道沿いにあったAIBAへと馬券を購入するために立ち寄った。だが、いつもなら建物の前に止まっているはずの車の数があまりにも少なく、しかも入り口のシャッターで閉ざされている。

 まさか今日は休業か、と思っていたところ、入り口の張り紙には、「新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当面の間、勝馬投票券の発売・払戻を取り止めます」と書かれていた。その時、日常的な行動を、非日常となった世界で取っていた自分に呆れただけなく、その非常識な世界が怖くなった。

 2月28日、鈴木直道北海道知事から発令された、緊急事態宣言を聞いた後の自分のFacebookで、「どこか、ゾンビ映画の世界にじんわりと入ってしまったような恐怖感と、未来が見えない絶望感を覚える」と載せた。ゾンビ映画と表現したのは、自分でも書き過ぎかと思ったが、感染(ゾンビ)を防ぐべく、家(ショッピングセンター)に籠城を余儀なくされた今の状況を見ると、あながち間違ってなかったのではとさえ思える。とはいっても、ライターとしての仕事としては、北海道に緊急事態宣言が発令される前やその後も、さほどの影響は出ていなかった。

 このコラムをWEBで読んでくれている、北斗市在中の母親からも、「コロナの影響で大変じゃないの?」と電話をもらったが、こちらとしては、その頃に隣町の七飯町で感染者が出たことや、年齢のわりにアグレッシブに動き回っている母親の方が心配であり、「今はあなたの近所が大変でしょうが!」とのツッコミさながらのタイミングで言葉を返していた。

 仕事のベースとなっている牧場取材でもマスク着用で臨んだり、取材の際も屋外で話を聞くように努めている。しかしながら、あるスタッフとの会話で、ここまで来ると自分が感染していても、発症していないだけと思うべきなのでしょうし、だからこそ、他人には移さないという責任感を持って行動するしかありませんよね」と聞いた時には、自分を「他人に迷惑をかけないゾンビ」だと思うことにした。

 そんな中、徐々にコロナによる影響が出始める。発売前なのであまり詳しくは書けないが、様々な事情が重なった結果、既に書き終えた原稿を、同時期に2つの媒体でボリュームアップしなければいけなくなった。しかも、編集作業もテレワーク化が進んでいるのか、「この日とこの日は出社しているので、締め切りもそこに合わせていただけると有り難いのですが...」と言われた時には、自分の仕事の手間が増えたことよりも、同情するより他に無かった。

 更に大変なことになった案件としては、こんな舌っ足らずの人間にも話をいただけるイベント関係の仕事が、「密閉、密集、密接」のいわゆる「三密」の状況を作り出すばかりに、軒並み中止になったことだろうか。

 それでも競馬が開催されているのは、ファンの一人としても非常に有り難い。仕事柄、家に引きこもっていることが多く、競馬や野球といったスポーツ中継をBGM代わりに流している(歓声が聞こえた時だけは画面を凝視する)のだが、今は野球だけでなく、様々なスポーツイベントが中止になっている。

 その中で競馬が中継されているのは、画面を凝視する時間が長くなってしまうデメリットがあるとはいえども、どこかホッとする。ひょっとしたら現在の日本において、スポーツを含めたライブイベントが中継されているのは、現時点で競馬だけかもしれない。

 そう思うと、多くの人に競馬を知ってもらえるいい機会だと思う反面、果たして今の状況下で、競馬だけが開催されていていいのだろうかとのいぶかしい気持ちもあった。

 それを払拭してくれたのが、日本騎手クラブの会長である武豊騎手が、競馬の様々な存在意義について話した後に語った、「このような状況だからこそ競馬を続け、万全の態勢で困難な状況に立ち向かって乗り越えていかなければいけません」との言葉である。競馬に詳しくない人でも、武豊騎手を知らない人はほとんどいないだろう。そして、武騎手から発せられたその言葉に、競馬が開催されているという事実と、今後も変わらずに競馬を続けて行くという強い意思を伝えていく効果もあったはずだ。