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北海道馬産地ファイターズ

村本浩平 北海道馬産地ファイターズ

第151回 『馬に乗らないホースマン PARTⅠ』

 先日、「優駿」の取材で、今年で創立30周年を迎えた軽種馬育成調教センター(以下、BTC)の取材に行ってきた。

 30年前となると筆者は18歳。当時は競馬の「け」の字も知らない年頃であり(まったくの嘘)、BTCという言葉を初めて知ったのは、大学卒業後に勤務していた育成牧場に、BTCの育成調教技術者研修を終えた騎乗スタッフが勤務していたことだった。

 全く馬など触ったことが無い自分に対して、懇切丁寧に手入れのやり方などを教えてくれたのも、そのBTC卒業の先輩だった。その先輩は大学を卒業後、一度サラリーマンを経験してから研修生となったこともあるからか、物腰も柔らかく、こちらの質問に対しても、分かりやすく答えてくれるだけの、馬学の知識も身に付けていた。

 全くのずぶの素人である自分が、このまま訳も分からず馬の仕事を続けていいかを悩んでいた時、その先輩にBTCにどうしたら入学できるかを質問したことがある。

 するとその先輩は、「自分の時でも入学を1年待って(当時の研修期間は6か月)と言われたし、今は入学希望者がもっと多くなっていると思うよ」と言われ、その頃からぽっちゃり(自己評価)としていた自分の体型をどうにかする前に、入学を断念さぜるを得なかった。

 現在ではBTC入学の応募資格にも大幅な変更があり、2020(令和2)年からは入講時に30歳以下だった年齢制限だけでなく、概ね45kg以上から60kg以下だった体重制限も撤廃されたのだ。

 つまり、今年49歳の自分でも入学できる!と思ったところ、なんと、今年からはこれまで20名程度だった研修生の受け入れ人数を25名に増加。つまり、入学までに待たされる時間も短くなる!...と思いきや、最盛期は1期あたり100名強の応募があった研修生だが、2004(平成16)年以降は応募者が減少。2019(平成31)年の応募者は男女合わせて18名と、受け入れ人数を下回っている。

 この事実を20代前半の自分が見たら、入学を申し出る前に、卒倒しているのではないかと思う。当時、あれだけの応募者があった理由には、第二次競馬ブームの波及効果や、ダービースタリオンといった競馬ゲームが、馬を育てることへの興味を沸かせたからではないかと個人的には思っている。

 その意味では、前回、前々回のコラムでも取り上げた「ウマ娘 プリティーダービー」が、ホースマンになりたい若者を生み出す可能性がある。そうは言っても、少子化傾向に歯止めがかかっていない上に、様々な選択肢が広がった現在社会において、ホースマンの仕事を選ぼうという若い人材は、第二次ベビーブーム世代だった自分の時よりも、はるかに少なくなっているはずだ。

 それでも、様々な制限が撤廃された効果の表れか、2020(令和2)年の応募者数は32名に増えており、今年の春の入学者の25名も下は16歳から、上は39歳まで幅広い世代がホースマンとなる夢を持ってBTCにやってきた。

 取材では教育課の方にBTCで行われているカリキュラムや、乗馬練習についても話を聞かせてもらったのだが、改めて他に類を見ない指導方法だなと思ったのが、45頭という乗馬練習で使用する教育用馬の数と、嘱託スタッフも含めて7名という乗馬指導員の数といえよう。

 この取材では乗馬練習も見せてもらったのだが、乗馬指導員は俯瞰で研修生に指示するだけでなく、共に乗馬に跨りながら、同じ目線での指導も行っていた。

 今年入学した研修生のうち、6名は馬術の経験があったというが、ゴールデンウィーク明けには全ての研修生が本格的な騎乗スタイルを身に付けただけでなく、取材の時点では個々のレベルに合わせたクラス分けも行えるようになっていた。

 これも優れた指導方法だけでなく、一日2鞍から3鞍を可能とした、豊富な教育用馬の数によるところも大きい。しかも、馬学も学べると、まさに至れり尽くせりの教育機関であるのだが、それでも一年の研修期間を待たずに、辞めてしまう研修生がそれなりの数がいることも事実であった。

 BTC研修生たちの奮闘ぶりは、TVのドキュメンタリーでも取り上げられており、自分もその映像を見たことがある。前向きな気持ちで入ってきた研修生の中に、日に日に表情が曇っていく生徒も目にするようになるのだが、その理由には乗馬技術が上がらない、もしくは馬に騎乗するのが嫌になるといった悩みが見受けられた。

 実際にその理由で辞めてしまう生徒もいるという。だが、馬に乗らなくとも、ホースマンとしての仕事は色々ある。それをBTCの研修で教えられないかと思うようになった。
(次号に続く)