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第155回 『マイスター・ハイスクール PARTⅠ』

2021.11.18
 いまや、サマーセールで最も注目を集める存在ともなった、北海道・静内農業高校で生徒たちが生産からせりまでの管理を手掛けた上場馬。今年も「ナリタトップスター2020(牡)、父マクフィ(GB)」が上場され、572万円(税込み)で落札されていった。
 会場内に響き渡る拍手を聞きながら、立ち写真の撮影場所へと向かう。そこには既に多くの取材陣がカメラを持って待ち構えていた。その中には新聞社の腕章を付けた記者や、TVカメラの機材を抱えたスタッフの姿もある。それだけ静内農業高校の上場馬は、様々なメディアが注目し、そして、広く知らしめられるようなニュースなのだろう。

 立ち写真の撮影後、管理をしていた生徒や、先生にも話を聞こうと思い、上場馬の待機厩舎へ向かっていると、JBBAの中西信吾さんから声をかけられた。「良かったですねえ」「良かったよ」と会話をしていた時、中西さんから、「今、こんなことをやっているんだよ」と名刺を渡される。そこには、「北海道静内農業高校 マイスター・ハイスクール産業実務家教員」と書かれていた。中西さんがなんで教員に?と質問しようとすると、目の前で生徒たちのインタビューが始まる。とりあえずは中西さんとの話は後にして、その取材に加わった。

 ここでマイスター・ハイスクールとはなんぞや?ということを、読者の方に伝えなければいけないだろう。「マイスター・ハイスクール」で検索すると、「マイスター・ハイスクール事業(次世代地域産業人材育成刷新事業)」との表記がある。事業の背景・目的の中身には、「専門高校等と産業界、地方公共団体が一体となって最先端の職業人材育成システムを構築するとともに、上記趣旨の達成に必要な専門高校等の職業人材育成にかかる教育課程等の改善に資する実証的資料を得るための研究開発を行う取組」との説明がされている。その中核となる専門高校などがマイスター・ハイスクールであり、本年度から始まった取り組みに、静内農業高校は北海道内で唯一、指定校として選出されることになったのだ。

 とは書いてはみたものの、マイスター・ハイスクールとなった静内農業高校で、教員の中西さんはどんな授業をしているのか。何よりもマイスター・ハイスクールとなったことで何が変わったのかが、全く分からない。

 中西さんに話を聞かせてもらおうと思ったが、その前に静内農業高校に取材をしようと思い、電話による取材の申し込みに加えて、メールで質問書も送らせてもらった。すると、農場長の平岡賢一先生から回答をいただけただけでなく、そこには詳しい内容が書かれていたのだが、全文を載せるには紙面が足りなさすぎるので、数号に分ける形でその内容をここに表記していきたい。

【質問】「マイスター・ハイスクールに関して、静内農業高校が指定校として採択された経緯について教えてください」

【回答】「採択の経緯については次のいくつかの要因が挙げられます。
 (1) 現在、本校は食品科学科、生産科学科の2学科を設置しており、軽種馬生産、園芸、食品、畜産と農業を支える人材を総合的に育成している国内随一の農業高校であること。
 (2) 地域の支援も手厚く、新ひだか町やJAしずない、日本軽種馬協会などから様々な支援が得られており、生徒が活躍する環境が整っていたこと。
 (3) 特に競走馬生産に取り組んでいる馬事教育の実践は日本で唯一の学校(学科)であるだけではなく、昨年度のセール馬(健斗)が2,500万円で落札されるなど、注目度も高い学校であったことです」

 平岡先生からは、8月に開催されたマイスター・ハイスクールの運営委員会における、佐藤裕二校長の発言についても書かれていた。要約した文章としては、「本校が所在する日高管内新ひだか町は、日本最大の馬産地でありながら、第2期新ひだか創生総合戦略によると、人口減少等により、将来、基幹産業を支える人材が不足し、地域産業が衰退することが危惧されています。そのため、地域産業の持続的発展をけん引できる人材の確保・育成が急務となっています。このことから地域の各団体や自治体、大学などと共同で、食品産業、園芸、馬産などの農業及び農業関連産業を支える人材育成を図り、地域創生に繋げる事業といたします」とある。この回答や佐藤校長の言葉からしても、全道、いや全国の農業高校の中でも静内農業高校がマイスター・ハイスクールとして指定されるに相応しい気もしてくるのだが、やはり、競馬マスコミとして気になるのは、「馬事教育」との関わりと、これからの発展である。
 (次号に続く)
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