第5コーナー ~競馬余話~
第173回 「白雪姫」
2025年7月12日、函館競馬第5レースの2歳新馬戦は7頭立てで行われ、単勝オッズ1.1倍という圧倒的な1番人気に支持されたマルガ(牝2歳、栗東・須貝尚介厩舎)が先手を奪うと、そのまま芝1800㍍を逃げ切って、デビュー戦を白星で飾った。単勝総売り上げ7,340万円のうち5,219万3,400円が武豊騎手が乗ったマルガに投じられていたが、見事に期待に応えた。
勝ち時計の1分48秒1は、18年にウィクトーリアが作った1分48秒3を0秒2更新する函館競馬場の2歳コース新記録になった。9ハロンのうち5ハロンで11秒台をマーク。上がり3ハロンを35秒7でまとめた点は将来性を感じさせる好内容だった。
マルガが先頭でゴールインし、「レコード」の赤い文字が電光掲示板に映し出されると、場内からは大きな拍手が起きた。2日後に発行された週刊「Gallop」はその表紙をマルガの写真で飾り、スター候補の誕生を報じた。
マルガがこんなにも注目を集めたのは、その毛色が希少な白毛であること。そして半姉が同じく白毛のソダシだという血統にある。マルガの5歳年上のソダシは父クロフネ(USA)、母ブチコ、母の父キングカメハメハという血統だ。マルガと同じ日の20年7月12日にやはり函館競馬場の芝1800㍍でデビューし、白星を挙げた。
このソダシの勝利は白毛馬が芝の新馬戦で勝利を挙げた第1号だった。それまでも新馬戦で優勝した白毛はいた。11年のマシュマロと18年マイヨブランだ。しかし、いずれもダート戦での勝利だった。ソダシはその後も「白毛初」の記録を次々と作っていく。新馬戦の次に出走した札幌2歳Sでは白毛初のJRA芝重賞勝ちをマークした。白毛初のJRA重賞勝利は19年にハヤヤッコがダート1800㍍のレパードSで記録していた。ソダシはその後も連勝街道を突っ走った。20年10月にはアルテミスSを快勝。12月の阪神ジュベナイルフィリーズで白毛初のGⅠ勝利を飾り、4戦4勝の成績で2歳シーズンを終えた。この年のJRA賞では記者投票で満票を獲得、最優秀2歳牝馬に選ばれた。
3歳時に桜花賞、札幌記念のタイトルを上乗せし、4歳でヴィクトリアマイルを制した。23年の安田記念で7着になったのを最後に現役を引退して繁殖牝馬になった。通算16戦7勝。GⅠ3勝を含め重賞6勝。獲得賞金は6億2,923万4,000円に達した。
ソダシの1歳年下のママコチャはソダシの全妹だが、毛色は鹿毛。見かけは違っていても潜在能力は姉に負けず劣らずだ。今も現役を続けているが、23年のGⅠスプリンターズSを含め計7勝を挙げる快足馬だ。
マルガとソダシはシラユキヒメを始祖とする白毛の3代目に当たる。シラユキヒメは1996年、父サンデーサイレンス(USA)(青鹿毛)、母ウェイブウインド(USA)(鹿毛)との間に生まれた。ハクタイユー(79年生まれ)、カミノホワイト(83年生まれ)、ミサワパール(91年生まれ)、ミサワボタン(93年生まれ)、ハクホウクン(94年生まれ)に次ぐ史上6頭目の白毛登録馬だった。シラユキヒメは9戦して未勝利に終わったが、金子真人オーナーはこの血統を大事にし、育てていった。シラユキヒメはユキチャン、マシュマロ、ブラマンジェ、マーブルケーキ、ブチコ、ブッチーニといった白毛の牝馬を産んだ。このうちブチコが母になって、ソダシやママコチャというGⅠ馬を送り出した。
鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛、栗毛、栃栗毛、芦毛、白毛と8種類に分類される中で、白毛はもっとも少ない。現在、中央競馬に登録のある8,900頭あまりの競走馬のうち、白毛は8頭にすぎない。約1000分の1の確率でしか生まれない白毛が、こんなに活躍しているのは、シラユキヒメの血統を守り、育ててきた金子真人オーナー(金子真人ホールディングス(株))の功績であることは間違いがない。
マルガの新馬戦勝利はJRAにおける白毛の53勝目だった。勝利を挙げた白毛は計20頭。このうちシラユキヒメの遺伝子を持っていない別線の白毛は3頭だけだ。つまりマルガの勝利はシラユキヒメを原点にする白毛グループのJRA通算50勝目という記念すべき勝利でもあった。このほかにユキチャンは関東オークスやTCK女王杯など、アマンテビアンコは羽田盃と中央・地方の交流レースで勝ち星を挙げている。素晴らしい成績というしかない。