第5コーナー ~競馬余話~
第177回 「早世」
ドゥラメンテの遺児が2025年秋に躍動した。
第86回菊花賞で優勝したのはエネルジコ(牡3歳、美浦・高柳瑞樹厩舎)だった。1周目は後方で進み、2周目の向こう正面からスパートを開始。4コーナーを5番手あたりで回るとメンバー中最速の上がり3ハロン35秒0の末脚を繰り出し、2着のエリキングに2馬身差をつけてゴールした。春はダービートライアルの青葉賞を制したが、体調が整わず、無念のダービー断念。夏の新潟記念で復帰して2着になり、そこから菊花賞に挑んだ。
ドゥラメンテ産駒が菊花賞を勝つのは、21年のタイトルホルダー、23年のドゥレッツァに続き、3頭目になる。種牡馬別で見ると、ディープインパクトの5勝、サンデーサイレンス(USA)の4勝に次ぐ、3位タイの記録だ。この記録のすごさは確率の高さにある。ドゥラメンテは21年8月に9歳の若さで急死した。17年、5歳の春に種牡馬生活を始めたドゥラメンテは、5世代しか産駒を送り出していない。5世代のうち3世代が菊花賞を制したのだ。13世代で5勝したディープインパクトもすごいが、菊花賞馬の父になった確率はドゥラメンテの方が上だ。
菊花賞の翌週、第172回天皇賞・秋は、マスカレードボール(牡3歳、美浦・手塚貴久厩舎)が優勝した。菊花賞を制したエネルジコと同世代。こちらは皐月賞で3着、ダービーで2着と春のクラシック戦線で上位争いをしたが、三冠最後の菊花賞には向かわず、年上との一戦に臨んだ。戦後、天皇賞・秋に3歳馬が出走できるようになったのは87年から。それ以降ではバブルガムフェロー、シンボリクリスエス(USA)、エフフォーリア、イクイノックスに続く3歳での優勝記録となった。
前述したようにドゥラメンテは21年に死んだため22年に生まれたエネルジコやマスカレードボールが最終世代だ。こうして産駒が活躍するたびに早世が惜しまれる。
ドゥラメンテは12年3月22日に北海道ノーザンファームで生まれた。父キングカメハメハ、母アドマイヤグルーヴという血統だ。キングカメハメハはNHKマイルCとダービーの両レースを制し、史上初めて「変則二冠」を達成した。NHKマイルC、ダービーをともに好時計で勝ったポテンシャルは産駒にも伝えられた。産駒のGI勝ちは27勝を数える。
母のアドマイヤグルーヴもエリザベス女王杯優勝のGI馬だ。ドゥラメンテを出産した年の10月に12歳で死亡したため、ドゥラメンテが最後の産駒になった。アドマイヤグルーヴの母エアグルーヴはオークスと天皇賞・秋を制した。エアグルーヴの母ダイナカールもオークス馬だ。エネルジコやマスカレードボールはダイナカールから数えて5代続けてGI級レース優勝を続ける貴重な血統だ。またドゥラメンテの母系にはノーザンテースト(CAN)、トニービン(IRE)、サンデーサイレンスが注入され、父キングカメハメハも含め歴代のリーディングサイアーをすべて含むという豪華な血統だ。国内で生産することのできる、これ以上ない良血といえる。
種付希望も殺到し、17年に284頭、18年に294頭と国内最多の種付けをこなした。死後2年たった23年にはリバティアイランドが桜花賞、オークス、秋華賞の牝馬三冠を達成したほかドゥレッツァが菊花賞、シャンパンカラーがNHKマイルCを制するなど産駒は294頭が1,202戦し、このうち82頭が118勝を挙げた。獲得賞金は41億6,555万9千円となり、2位のロードカナロアに2億円あまりの差をつけ中央競馬のリーディングサイアーに輝いた。父内国産の種牡馬がリーディングサイアーになった初めてのケースだった。
ドゥラメンテ産駒のGI優勝馬はタイトルホルダー、スターズオンアース、リバティアイランド、ドゥラエレーデ、シャンパンカラー、ドゥレッツァ、ルガル、エネルジコ、マスカレードボールの9頭で計15勝。その中身が素晴らしいのは1200㍍のスプリンターズS(ルガル)から3200㍍の天皇賞・春(タイトルホルダー)まで、GIレースの最短距離から最長距離までカバーしている点だ。これはサンデーサイレンスとディープインパクトしか達成していない快記録だ。改めて感じる。早すぎたドゥラメンテの死はかえすがえすも惜しまれる。
