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第8回 F1と競馬の共通点

2008.11.25
 10月9日から12日まで,静岡・富士スピードウェイで行われたフォーミュラワン(F1)日本グランプリ(GP)の取材に行った。

 スポーツ紙に在籍していた時代は,競馬だけを専門に担当していた。しかし一般紙のスポーツ記者になってからは,そうもいかなくなった。サッカー,アメリカンフットボール,セパタクロー,フリースタイルスキー。知識があろうがなかろうが,経験があろうがなかろうが,人手が足りない時はどんなスポーツの取材にも駆り出される。最近は,モータースポーツの担当でもある。
 「競馬といい自動車といい,人が乗って走るものが好きなんですねえ」。同僚にいわれた。

 競馬は好きでやっているけれど,モータースポーツはそれほどでもない。ただ,今回で3度目になったF1の取材はいつでも楽しめる。

 取材をすればするほど,F1と競馬は似ていると思う。競馬は1頭の馬に様々な立場の人がかかわっている。馬主,生産者,調教師,騎手,調教助手,厩務員,装蹄師,獣医師。最近は育成牧場の人々も重要な役割を果たすようになった。

 F1の構図も同じだ。1台の車にオーナー(トヨタ,ホンダなど),監督(調教師),ドライバー(騎手),メカニック(厩務員)がいる。それぞれの役割分担がはっきりしていて,全員が勝つために一丸となる。昔の人は車のことを「鉄の馬」と呼んだ。

 F1をよく知らない人でもフェラーリの名前はご存じだろう。イタリアの自動車メーカーであるフェラーリは車体もエンジンも自社製の車でF1に参戦している。そのフェラーリ・チームの正式名称は「スクーデリア・フェラーリ」という。チーム・フェラーリという意味だが,この「スクーデリア」というイタリア語には「厩舎」という意味もあるそうだ。そういえば,立ち上がった馬が描かれたフェラーリのエンブレムは「跳ね馬」といわれる。どこかでF1と競馬はつながっているのだ。

 国籍や民族を意識しないで済む世界である点も似ている。アラブ首長国連邦の馬主が所有する馬を英国人の調教師が育て,イタリア人の騎手が手綱を取る。この数十年の間に,そんな光景は当たり前になってきた。

 F1の世界にも国境はない。ドイツ製メルセデス(ベンツ)のエンジンを積んだ英国チーム・マクラーレンのマシンを操るドライバーの一人はフィンランド人のコバライネンだ。そして,すべてのF1マシンは日本のブリヂストン社製のタイヤを履いている。

 これほど共通点の多い競馬とF1だが,決定的に違う部分もある。それはメディア対応だ。F1マシンには所狭しとスポンサーのシールが貼ってある。強いチーム,話題性のあるチームのスポンサーになれば,テレビ映像になって流れ,新聞・雑誌に大きく載る。人の目に触れることは大きな宣伝効果になる。F1チームにとって,いかに数多くメディアに露出するかが,スポンサーへの最大の貢献になる。

 木曜日のフリー走行に始まり,土曜日の予選,日曜日の決勝まで,チームは実にこまめに会見の場をつくる。記者席の掲示板には,「15時からクラブハウスの前でドライバー」といった貼り紙が並ぶことになる。

 現在の競馬におけるメディア対応は専門記者を対象にしたシステムだ。長年築いてきた信頼と,あうんの呼吸をベースにして,取材する側,取材される側が動いている。この方法では,競馬の広がりはない。F1はその点,初めてモータースポーツを取材する記者のレベルに合わせた対応をしている。同じ質問を繰り返されても嫌な顔をしない。ドライバーも実によく訓練されている。

 F1を真似て,騎手の勝負服,あるいはゼッケンに広告をいれてみてはどうだろうか。スポンサーのためにメディアに露出しようとすることによって,固定したメディアばかりでなく,様々なメディアが競馬を取り上げてくれるような気がする。


JBBA NEWS 2008年11月号より転載
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