第5コーナー ~競馬余話~
第153回 「龍王」
2023年11月12日は「ロードカナロアの日」になった。
京都競馬場で行われたエリザベス女王杯ではブレイディヴェーグ(牝3歳、美浦・宮田敬介厩舎)が優勝し、父ロードカナロアに通算15個目のJRAGⅠタイトルをプレゼントした。およそ20分前に行われた福島記念でも6歳牝馬のホウオウエミーズがハナ差の勝利を収め、自身初の重賞勝ちを手にした。また福島記念とエリザベス女王杯の間に行われたオーロCもグランデマーレが1着となり、福島、東京、京都の3場でメインレースをいずれもロードカナロア産駒が優勝するという快挙が達成された。
産駒はこの時点で獲得賞金を35億4,857万4,000円とし、ロードカナロアはJRAのリーディングサイアーとなっている。このままの順位を守り切れば、産駒がデビューした2017年から7年目にして自身初の年間リーディングになる。それは同時に11年続いた「ディープインパクト時代」の終焉でもある。
ロードカナロアは日本が生んだ歴代最強のスプリンターだと言っていい。
2008年3月11日、北海道新ひだか町のケイアイファームで誕生した。父はキングカメハメハ、母はレディブラッサム、母の父ストームキャットStorm Cat(USA)という血統だ。栗東トレーニング・センターの安田隆行厩舎に預けられ、2010年12月5日、小倉競馬場の芝1200㍍でデビューした。レースは単勝1.2倍という断然の1番人気に応え、2着馬に6馬身差をつける圧勝だった。
その後、距離を延長したレースで2連敗したが、4戦目から再び1200㍍戦に的を絞ると、ドラセナ賞から3連勝。11月の京阪杯では重賞初挑戦で初勝利。続く2012年1月のシルクロードSでも重賞2連勝を飾った。3月には高松宮記念に出走。GⅠ初挑戦を果たしたが3着。生涯19戦13勝、2着5回のロードカナロアが唯一連対を外したのが、この高松宮記念だった。
函館スプリントS、セントウルSはともに2着になり、9月にスプリンターズSに挑んだ。高松宮記念優勝のカレンチャンに1番人気を譲り、単勝は2番人気。デビューから11戦連続で守ってきた1番人気はついに途絶えた。16頭立ての16番枠からのスタートになったが、前走のセントウルSからコンビを組むようになっていた岩田康誠騎手が見事なエスコート。中団を進み、最後の直線ではカレンチャンを競り落として1着になった。GⅠ初制覇は中山競馬場の芝1200㍍1分6秒7のレコードというおまけ付きだった。
4歳の最終戦は初の海外遠征、香港スプリント(シャティン競馬場、芝1200㍍)となった。1990年代後半から暮れの香港は日本調教馬の活躍の場になっていた。フジヤマケンザンが1995年にGⅡ時代の香港カップを制したのを皮切りにエイシンプレストン(USA)、アグネスデジタル(USA)、ミッドナイトベット(USA)、ハットトリックなど数多くの日本調教馬が香港カップや香港マイルで優勝を飾った。しかし短距離部門で香港勢の層が厚い香港スプリントだけは長く攻略できない鬼門になっていた。
香港での馬名表記「龍王」ことロードカナロアにそんなジンクスは関係なかった。2着馬に
2馬身1/2差をつける完勝で自身の海外GⅠ初勝利を飾るとともに日本調教馬による初の香港スプリント制覇も達成した。
5歳のロードカナロアはさらにパワーアップした。6戦5勝でGⅠ4勝。それまで勝ったことのなかった距離1600㍍の安田記念を制したほか、高松宮記念で前年のリベンジを果たし、スプリンターズSと香港スプリントは2連覇をマークした。2着に敗れたセントウルSも勝ったハクサンムーンとは同タイムでクビ差だった。
香港スプリント快勝を最後に現役を引退したロードカナロアはJRA賞の2013年の年度代表馬に選ばれた。2018年には顕彰馬になり、競馬の殿堂入りを果たした。
社台スタリオンステーションで種牡馬入りすると、その卓越したスピードとサンデーサイレンス(USA)の遺伝子を持たない血統が生産者に好まれた。初年度の2014年から254頭に種付けする好スタートを切った。産駒がデビューした2017年は2歳リーディングでディープインパクトに次ぐ2位。ファーストクロップサイアーズではトップとなった。
初年度産駒から牝馬3冠のアーモンドアイ、マイルチャンピオンシップ優勝のステルヴィオを送り出し、2年目にはサートゥルナーリア(ホープフルS、皐月賞)が誕生した。その後もダノンスマッシュ(高松宮記念)、ダノンスコーピオン(NHKマイルカップ)、ファストフォース(高松宮記念)、ブレイディヴェーグ(エリザベス女王杯)と毎年GⅠ勝利を続け、2020年からは3年連続で総合リーディング2位をキープしてきた。産駒は父以上に距離の融通がきく。悲願達成となれば順当な首位奪取ともいえるが、ライバルであるドゥラメンテ、キズナとの差はそれほど大きくない。1着賞金5億円のジャパンカップと有馬記念を控えており、リーディング争いはまだ予断を許さない。ロードカナロアを中心にした2023年のリーディングサイアー争いは最後の最後まで目を離せない展開だ。