第5コーナー ~競馬余話~
第152回 「4代」
モーリスなどの一流馬を送り出したスクリーンヒーローが種牡馬を引退した。2023年10月10日に長年住み慣れたレックススタッドを離れ、生まれ故郷の社台ファームに移動した。そこで余生を送るという。19歳でのハッピーリタイアメントとなった。
2004年4月18日、スクリーンヒーローは社台ファームで生まれた。父グラスワンダー(USA)、母ランニングヒロイン、その父サンデーサイレンス(USA)という血統だ。母のランニングヒロインは中央競馬で2戦しただけで引退したが、筋の通った血統馬だった。
ランニングヒロインの母は1987年と1988年に2年連続して最優秀4歳以上牝馬に選ばれたダイナアクトレスである。快足で鳴らし、19戦7勝の成績を残した。重賞は函館3歳S(現函館2歳S)、京王杯オータムH、毎日王冠、当時はまだGⅡだったスプリンターズS、京王杯スプリングCの5勝を数えた。
ランニングヒロインの3歳年上の半兄ステージチャンプ(父リアルシャダイ(USA))はオープン特別だった頃の青葉賞のほか日経賞、ステイヤーズSを制し、1993年の菊花賞と1995年の天皇賞・春ではそれぞれ2着に頑張った。1歳年上の全姉プライムステージは1994年の札幌3歳S(現札幌2歳S)を制し、1995年の桜花賞ではワンダーパヒューム、ダンスパートナーに続く3着になった。札幌3歳Sでのプライムステージの勝利はJRA歴代最多の重賞311勝を挙げたサンデーサイレンス産駒の最初の重賞勝利という記念すべき白星である。
こうした背景を持つスクリーンヒーローは母のランニングヒロインや祖母のダイナアクトレスと同じく美浦トレーニング・センターの矢野進調教師に預けられた。2007年1月、デビュー3戦目で初勝利を挙げると、2月には2勝目を加えた。三冠レースを目指していたが、惜しいところで賞金を加算することができなかった。9月のセントライト記念で3着になった後、故障のため長い休養に入った。この休養の間にスクリーンヒーローを取り巻く環境は大きく変わった。2008年2月いっぱいで矢野調教師が定年退職し、3月1日付で新規開業した鹿戸雄一厩舎に移ったのだ。
けがが癒えて、レースに復帰したのは8月の札幌だった。11か月ぶりの実戦という不利を乗り越え、距離2600mの支笏湖特別を快勝した。その後の2戦を連続2着して挑んだのがアルゼンチン共和国杯だ。5番手を進んだスクリーンヒーローは最後の直線で逃げ込みをはかるテイエムプリキュアを競り落とし、迫って来たジャガーメイルとアルナスラインを抑え込み、待望の重賞初制覇を果たした。
初重賞制覇の勢いそのままに中2週でジャパンCに臨んだ。メイショウサムソン、ウオッカ、ディープスカイと3頭のダービー馬、有馬記念優勝のマツリダゴッホ、菊花賞馬オウケンブルースリなどのGⅠ馬がそろう中、重賞を勝ったばかりの4歳馬スクリーンヒーローに注目は集まるわけもなく、単勝は17頭立ての9番人気にとどまった。
レースはミルコ・デムーロ騎手に導かれ好位置を進んだスクリーンヒーローが最後の直線で早めに先頭に立ったマツリダゴッホをかわし、外から迫るディープスカイ、内のウオッカを抑えて先頭でゴールした。単勝4,100円は今もレース最高配当として残る波乱の結果だった。鹿戸調教師は開業1年目でGⅠ制覇という記録を残した。
その後、スクリーンヒーローは2009年のジャパンCで引退するまで6連敗した。種牡馬入りしてからも初年度は84頭の種付頭数で、3年目には53頭に落ち込んだ。しかし初年度産駒のモーリスとゴールドアクターが活躍すると、2015年には種付数が190頭まで上がった。スクリーンヒーロー産駒のGⅠ馬は3頭。モーリス、ゴールドアクター、ウインマリリンである。
モーリスは安田記念、マイルチャンピオンシップ、天皇賞・秋、香港マイル、チャンピオンズマイル、香港カップと国内と香港で合計6つのGⅠを制した。ゴールドアクターは有馬記念のほかアルゼンチン共和国杯、日経賞、オールカマーとGⅡを3勝した。ウインマリリンは香港ヴァーズでGⅠ馬となり、それ以前にフローラS、日経賞、オールカマーで重賞勝ちを収めている。
スクリーンヒーローの特筆すべき特長は、父グラスワンダーの遺伝力を子、孫の代までつなげていることだ。モーリスはピクシーナイト(スプリンターズS)、ジャックドール(大阪杯)という2頭の後継GⅠ牡馬を送り出した。メジロアサマ→メジロティターン→メジロマックイーンという父子3代の天皇賞制覇やサクラユタカオー(天皇賞・秋)→サクラバクシンオー(スプリンターズSなど)→ショウナンカンプ(高松宮記念)、グランプリボス(NHKマイルCなど)、ビッグアーサー(高松宮記念)など父から息子へ3代続いてGⅠタイトルに輝いた例はこれまでにもあったが、グラスワンダーに始まり、4代続けて父系が輝き続けたのは史上初めてだ。いずれはピクシーナイトやジャックドールが後継種牡馬になり、この父系をさらに発展させていくことになるだろう。そうなれば素晴らしい。