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第156回 「伊国」

2024.03.13

 2024年2月4日、小倉競馬場で行われた第12レースの「4歳以上1勝クラス」(芝1200㍍)は波乱の結末になった。主役を演じたのは14頭立ての12番人気だったバラードインミラノ(ITY)(牡6歳、美浦・小野次郎厩舎)である。4コーナー最後方から直線一気の追い込みを決めて鮮やかに勝利した。


 バラードインミラノは父Danon Ballade(JPN)(ダノンバラード)、母Epica(IRE)というイタリア産馬だ。手元の資料によると、バラードインミラノは1990年以降、中央競馬で勝利を挙げた唯一のイタリア産馬だ。イタリアといえば「ドルメロの魔術師」と言われた天才馬産家フェデリコ・テシオが生まれた国。そのテシオがつくったリボーは16戦16勝の成績を残し、凱旋門賞2連覇を飾った。


 これまでにもイタリア産馬が中央競馬で走ったことはあった。シルククレセント(ITY)は1997年に2戦しただけで登録を抹消した。ダイワレインボー(ITY)も1戦だけで現役を引退した。変わったところでは、2007年のマイルチャンピオンシップに出走した米国調教馬ベクラックスBecrux(ITY)だ。イタリア生まれのベクラックスはイタリアでデビューしたが、その後米国に移籍。2006年にカナダ・ウッドバイン競馬場でGⅠウッドバインマイルに出走し、見事に優勝している。マイルチャンピオンシップでも、優勝したダイワメジャーと0秒7差の8着になった。


 そんなイタリアで生まれたバラードインミラノは2020年、2歳の時に来日した。美浦トレーニング・センターの畠山吉宏厩舎に所属し、同年12月の中山競馬場でデビューした。芝1600㍍の新馬戦で16頭立ての1番人気になった。レースでは2番手の好位を進んだが逃げたライバルを捉えきれず、2着に終わった。その後、9戦したが、勝利を挙げることができず、地方競馬へと移籍した。兵庫の長倉功厩舎に所属し、園田、姫路競馬場で走り、26戦4勝を挙げ、再び、中央競馬に戻ってきた。中央初勝利は復帰後3戦目だった。


 バラードインミラノが輸入された理由は父がダノンバラードだったからだ。


 ダノンバラードは2008年2月19日に㈲ケイアイファームで生まれた。父ディープインパクト、母レディバラード(IRE)という血統だ。ディープインパクトの初年度産駒の1頭で、母のレディバラードはダートグレードのクイーン賞(船橋競馬場)やTCK女王杯(大井競馬場)で勝利を挙げるなど19戦7勝の成績を残した。


 ダノンバラードは父のディープインパクトと同じ栗東トレーニング・センターの池江泰郎厩舎に所属した。2010年10月24日、京都競馬場でデビュー戦を迎えた。12頭立ての4番手を進んだダノンバラードは最後の直線でライバルを競り落とし、デビュー戦を白星で飾った。父の主戦だった武豊騎手がディープインパクト産駒で勝ち星を挙げた、記念すべき最初のレースとなった。


 デビュー3戦目はラジオNIKKEI杯2歳Sだった。前走の京都2歳Sで3着になっていたダノンバラードは4番人気だった。15頭立てのレースで4コーナーを10番手で回ったダノンバラードは最後の直線で父譲りの末脚を発揮し、メンバー中最速の上がり34秒7をマークして優勝した。この白星が父のディープインパクトにとって産駒の重賞初勝利だった。


 3歳になったダノンバラードは共同通信杯に出走し、9着に終わった。これが池江泰郎厩舎での最後の出走となった。池江泰郎調教師が定年になったためだ。池江泰寿厩舎に移籍して最初のレースが皐月賞。オルフェーヴルに4馬身あまり離された3着になり、その後に期待を繋いだが、脚部不安に見舞われ、ダービーをあきらめることになった。


 ダノンバラードの次の重賞勝利は2013年のAJC杯まで待たなければならなかった。GⅠでは2013年の宝塚記念で2着になったのが最高で、通算26戦5勝の成績で現役を引退し、2015年から種牡馬になった。


 国内で2年間、種牡馬活動をしたところで欧州の馬主グループに購入され、イタリアに渡った。2018年には英国で供用された。


 日本に残してきた産駒が競走年齢に達した2018年になってナイママが現れた。ホッカイドウ競馬に所属したナイママは札幌競馬場で行われたコスモス賞で中央所属の4頭を含む9頭のライバルを破り、勝利を挙げた。続く札幌2歳Sでもニシノデイジーとクビ差の2着になり、父ダノンバラードの名を上げた。ナイママのほかにウィンターフェルなどの活躍馬が現れた。


 この活躍を見た岡田繁幸氏が英国にいたダノンバラードを買い戻し、再び日本で種牡馬復帰することになった。帰国後の産駒であるキタウイングは2022年の新潟2歳Sと2023年のフェアリーSと2つの重賞を制した。


 バラードインミラノは波乱万丈の馬生を送る父ダノンバラードだからこそ誕生した貴重なイタリア産馬だ。

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