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第5コーナー ~競馬余話~

有吉正徳 第5コーナー ~競馬余話~

第102回 「合作」

 2019年7月30日、ディープインパクトが17歳の生涯を閉じた。原因は頸椎骨折という。まだまだ働き盛りの若すぎる死だった。

 理想のサラブレッドであった。現役時代は皐月賞、ダービー、菊花賞の3冠を含む14戦12勝の成績を残し、天皇賞(春)、宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念も制し、GⅠは7勝。種牡馬としても、2012年から昨年まで7年連続のリーディングサイアーに輝いた。産駒が残っているため、今年以降も首位を守ったとしてもおかしくはない。

 セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、オルフェーヴル。ディープインパクトを含めると、これまで7頭の3冠馬が誕生しているが、リーディングサイアーになった3冠馬はディープインパクト以外にはいない。

 プロ野球の世界に「名選手必ずしも名監督ならず」という格言があるように「名競走馬必ずしも名種牡馬ならず」ということはできそうだ。そんなジンクスをディープインパクトは軽々と打ち破ってみせた。

 ディープインパクトの訃報にショックを受けていると、今度は8月9日にキングカメハメハが死んだ。ディープインパクトの1歳上の18歳。2004年のダービー優勝馬で2010、11年のリーディングサイアーである。ディープインパクトが首位を守ってきた昨年までの7年間、ずっと2位をキープしてきたのがキングカメハメハだった。日本の生産界は、10日足らずの間にナンバーワン、ナンバーツーの種牡馬を失った。

 先月のこのコラムで病気のため種牡馬引退を決めたキングカメハメハのことを書いたばかりだった。「のんびりと余生を送ってほしいと願う」と締めくくったのだが、そうはならなかった。

 先にリーディングサイアーになった3冠馬はいないと書いた。名競走馬は名種牡馬ならず、とも書いた。それでも、日本ダービー馬になり、同時にリーディングサイアーに輝いた馬はいた。クモハタ、ディープインパクト、そしてキングカメハメハの3頭だ。貴重な3頭のうちの2頭を1度に失った。この喪失感は大きい。

 救いがあるとすれば、ディープインパクトとキングカメハメハの両馬から血を受けたサラブレッドがかなりの数、存在することだ。

 父ディープインパクト、母の父キングカメハメハという血統を持つJRAの登録馬は2歳から9歳まで31頭を数える。最大の活躍馬は2015年生まれのワグネリアンだ。2018年の日本ダービー優勝馬は4歳になった今年も大阪杯3着、札幌記念4着と頑張っている。ワグネリアンの次に獲得賞金が多いのは2010年生まれの牝馬デニムアンドルビーだ。重賞勝ちは2度しかないが、宝塚記念とジャパンカップというGⅠで牡馬を相手に2着に食い込んだ走りが記憶に残る。

 今、旬なのは2歳の牡馬ラインベックだ。父ディープインパクト、母アパパネ(その父キングカメハメハ)。両親とも3冠馬という夢の配合で生まれた。全兄のモクレレ、ジナンボーも白星は挙げたが、重賞勝ちには手が届いていない。ラインベックはデビューからの2連勝で来年のクラシック戦線に乗れそうな勢いだ。両親に少しでも近づく成績を残せるのか、期待を抱かせる。

 逆の組み合わせでは、まだ重賞勝ち馬は現れていない。父キングカメハメハ、母の父ディープインパクトという配合では23頭がJRAに登録されている。出世頭は2016年生まれの牡馬ランフォザローゼスだ。今年の青葉賞で2着になって権利を獲得、日本ダービーに挑み、7着に入った。

 父キングカメハメハ、母の父ディープインパクトという組み合わせが23頭なのに対し、父ロードカナロア(その父キングカメハメハ)、母の父ディープインパクトという配合が33頭もいるのは驚きだ。現4歳が最初の世代だが、2016年生まれの牡馬ファンタジストは小倉2歳S、京王杯2歳Sと2つの重賞レースで白星を飾っている。

 同じように父ルーラーシップ(その父キングカメハメハ)、母の父ディープインパクトいう配合からは菊花賞馬キセキが生まれている。

 偉大だったディープインパクトとキングカメハメハ。2頭の死はかえすがえすも残念だが、「ディープとキンカメ」の共同作業による「合作」は残った。