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第67回 『ダービーって?』

2014.07.16
 先日、コーナータイトルにも自分の名前が使われている(笑)、北海道の某FM局で打ち合わせをしていた際の話になる。そのコーナーでは初心者に向けた競馬の説明、そして週末のレースの予想をしているのだが、スタッフの女性から、「番組や村本さんの話を通して、ダービーが凄いレースだということは充分に分かったのですが、それでも、どうしてGⅠレースの中で、ダービーだけがあれほど盛り上がるのかがピンと来ません」と言われて、一瞬、言葉が返せなかった。
 しかし、ここは幾多の競馬教室で講師をこなしてきた自分、近代競馬の始まりについてや、ダービー伯爵とバンベリー準男爵とのコイントス、そして日本でダービーがどのように注目され、様々なドラマがどう生まれたのかを額に汗を浮かべながら説明すると、「やっぱりダービーってGⅠの中でも凄いレースなんですね!」と納得したかのように答えてくれた。

 さあ、これで打ち合わせに入るぞ!と思っていたら、このコーナーを企画してくれた広告代理店の女性が、こんなことを言い出す。「でも三冠レースの中で、ダービーが特に注目されるのって不思議ですよね。三冠レースの最後だし、最も距離が長いから菊花賞がメインイベントのようなものだと、最初の頃は思っていました」

 言われてみればそうである。その広告代理店の女性は仕事やプライベートを通して、約20年来の競馬ファンでもあるので、菊花賞と、そのモデルとなったセントレジャーステークスの話はしなくても良かったのだが、「終わりよければ全て良し」とのことわざもあるように、大抵の物事は最後が1番盛り上がるのは自明の理である。

 真ん中のダービーだけがあれほどちやほやされるのは、盛り上がるきっかけを作った皐月賞、そして感動的なフィナーレを決めたはずの菊花賞も、決して本意ではないだろう。

 その広告代理店の女性はこうも続ける。「初心者の方に競馬の説明をするとき、ダービーを軸に説明するよりも、有馬記念の方が凄いレースだと説明をする方が理解してもらえるんですよ」

 確かに3歳馬限定のダービーよりは、3歳から古馬まで出走可能な有馬記念の方がオールスター感がある。何より今年最後のGⅠレースということからしても、盛り上がること必至というシチュエーションも整っている。

 以前、初心者向けの競馬教室を行った際、知っているレースで最も名前が挙がったのは有馬記念であり、その次がダービーだった。一般の層にもこの2つのレースの認知度が高いことに胸をなでおろした一方で、ダービーだけがこれほどに盛り上がる理由については、あまり理解されていない。

 ダービーの魅力を競馬を知らない人に理解してもらうのは意外と難しい。不特定多数の人が目にする可能性の高い、15秒のTVCMではとても説明仕切れないだろうし、ダービーを見に来た、あるいはダービーの馬券を買ってみたという競馬初心者の方のほとんどが、FM局のスタッフの女性のように、「ところでダービーって何?」と思っているのではないだろうか。

 そう考えると、作家の宮本輝さんが原作を書き、映画も大ヒットした「優駿」や、大ヒットした競馬ゲームの「ダービースタリオン」もまた「ダービー」という名前の滲透、そしてダービーがどれほど価値のあるレースかを知らしめたことに、とても貢献したと言えるだろう。だがその一方で、近年は「ダービー」の言葉だけが一人歩きしてしまい、その真の意味が伝わっていないような印象も否めない。

 それでもダービーを中心に競馬を見て行けば、より深く競馬を理解できるようになるのも事実である。
 なぜ3歳馬だけが出走できるレースなのか?その舞台に出走するためには何が必要なのか?その馬の父や母、そして騎手や調教師、はたまたオーナーや生産者まで、なぜダービーを目標にしているのか?などを知ることで、競馬の構図が一気に見えてくる。

 またダービーに勝利した馬が、その後、どんな競走生活を送り、そして引退後は種牡馬・繁殖牝馬となって、後世に血を残していくところまでを追って行けるようになった時、競馬はダービーを中心にサイクルが出来上がっており、そして生涯に渡って楽しめる娯楽であることにも気づかされる。

 東京競馬場に約14万人のファンが集まった今年の日本ダービーも、もの凄いエネルギーの集合体のように思えた。こんな素晴らしいイベントを、まだアピールできないのは実に勿体ない。「ダービー」をより広く認知させるための行動は、「ダービー」の真の魅力を知る我々が始めなければいけないことであり、それは今年のダービーが終わった、この瞬間から始めなければいけないことなのだろう。
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