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第154回 『日本で最も新しい競馬場 PARTⅡ』

2021.10.19
 そう話している間にも、門別草ばん馬競馬場(仮称)の駐車場には、次から次へと車が入ってくる。その中には、近くのセブンイレブンへ昼食を買いに来たという牧場スタッフや、日高道の門別ICを使って、家族と共に買い物に行こうと思っていたと話す、知り合いの厩舎長の姿もあった。

 いずれも競馬業界に身を置くホースマンたちながらも、草ばん馬を見るのはこれが初めてだったらしく、草ばん馬ならではのスピード感に圧倒されたとの言葉も聞こえてきた。

 その反応を見た時に、新型コロナウイルス感染症による、まん延防止等重点措置の発令がされていなければ、まだ大々的に事前告知をすべきイベントだったのでは、と思えた。

 草ばん馬の凄さというか魅力は、ホースマンたちも驚かせるほどのスピード感と迫力を備えているだけでなく、競馬や輓馬を知らない人でも、愛らしいポニーが軽々とそりを引いていくという、見た目のギャップにもある。

 その意味でも万人に受け入れられやすい要素を備えているのは間違いなく、だからこそ、北海道内の各市町村で、地元の祭りの一環としても開催されてきたのだろう。

 しかしながら、昨年から様々な祭りやイベントが中止となった煽りを受ける形で、全道各地をサーキット方式のように開催されてきた草ばん馬大会も、軒並み中止となっていた。

 その地域で草ばん馬大会が開催されるのは、大まかに言ってしまうと年に1回。その大会のために地域の関係者たちは、数か月前から雑草に覆われた競馬場近辺の草刈りや、コースに砂を入れるといった整地を始めていく。

 そして円滑な大会進行を行ったあと、白熱の戦いが行われた草ばん馬の競馬場は、再び草むらの中に溶け込んでいくのだが、年に一度の大会も行われないとなると、周辺の環境は更に悪化していく。

 過去を振り返っても、大会自体が中止になったどころか、そこから一度も開催が行われ無かった草ばん馬大会もある。復活させようにも、コースが使い物にならない草ばん馬競馬場もあるはずだ。

 その流れに一石を投じたような、門別草ばん馬競馬場(仮称)の開場となったわけだが、他の草ばん馬競馬場とは違って、市街地の中にあるこの場所なら、普段の管理もしやすいのかも知れない。

 しかも、国道や高速道路にほど近いというアクセス面の良さもまた、参加者だけでなく、観客も足を運びやすいというメリットもある。その気になれば年に一度ではなく、一か月に一回といった、コンスタントな開催も可能となりそうだ。
 そのコンスタントな開催かつ、観客も共に楽しめるレースが、日高ポニー輓馬大会では行われていた。

 昼休憩の際には、子供たちがそりに跨るエキシビションレースが行われていたのだが、なんと、ポニーと共にそりを引くのはそりに乗った子供のお父さんたち。その姿は東北で行われている馬力大会そのものであり、ゴール前の脚色を見ると、勝敗の鍵を握るのはそりを引っ張っていく、お父さんの脚力では無いかという気もしてきた。

 息も絶え絶えなお父さんの横で、一位になったことを喜ぶ子供たちの表情は、実に晴れ晴れしく、それはこれまでの草ばん馬大会には見られない光景でもあった。また、たまたま近くを通り掛かって、見学をしていたのであろう家族連れもレースへの参加を申し出るなど、エキシビションとは思えないほどの盛り上がりを見せていた。

 こんな草ばん馬もありだなあと思っていた時、今大会の実行委員会委員長である、福島一治さんが笑顔を見せながら話し出す。「若い世代だけでなく、競馬を知らない人たちも草ばん馬に取り込みたいと思いました。ここで馬と触れ合ったり、競馬を知っていくことで、将来は馬の仕事をしたいと思うようになってくれるのかもしれない。来年の大会でも子供たちが参加できるレースは増やしていきたいですね」そう話した福島さんは、関係者から声をかけられると、慌ただしくその場を後にする。その後も忙しい合間を見つけて、何度か話をする機会もあったのだが、この場所の通年利用は考えているとも話してくれた。また、大会が無いときも草ばん馬の練習を見せたり、この場所を町民の方にも有効利用していただければ、といった話も聞けた。

 すべてはアフターコロナの状況次第なのだろうが、屋外で行えるイベントかつ、それほど密にならない環境を整えられたのなら、来年は大々的に大会のアピールをしてもいいというか、むしろすべきだろう。

 何はともあれ、日本で最も新しい(草ばん馬の)競馬場。近くをお通りの際は、是非とも見に行ってもらいたいし、興味があるようならば、来年はポニーと共に大会への参加も願いたい。

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