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第166回 『九州再上陸』

2022.10.18
 まさに、寝耳に水だった。
 発した言葉を聞き取ってもらえないと思ったのか、スマホの向こうから声を発している博多の広告代理店の女性は、先ほどと同じ言葉を告げてくる。

 「北九州記念の日、村本さんに、小倉競馬場でのイベントに、出演していただけないかと思いまして!」

 2度同じ言葉を言われても、やはり、それが事実とは受け取れず、先ほどと同じように、「はあ...」との返答しかできなかった。

 その電話から約1か月後、筆者は福岡空港にいた。

 あの小声の「はあ...」が了承の言葉と取ってもらえたのか、イベント出演の話はとんとん拍子で進んでいった。

 それどころか、せっかく札幌から呼び寄せておきながら、イベントだけでは何なので!と言われ、小倉競馬場でビギナーズセミナーの講師も務めることにもなった。

 その結果、新千歳空港からの直行便による前日からの小倉入りが決定。それどころか、イベント&ビギナーズセミナーの後だと、新千歳空港までの直行便が無いとの判断で、後泊もさせていただける運びとなった。

 こんな条件のいい話はあるわけがない、絶対、新千歳空港から小型カメラを持ったスタッフが尾行してきて、最後は小倉競馬場でドッキリを仕掛けられるんだ!と戦々恐々とする日が続いた。

 だが冷静に考えてみると、グリーンチャンネルしか出ていない50歳のオジサンに、そんな予算と時間を割くようなマスコミがいるわけないことに気付いた。

 そのうち、小倉競馬場のイベント紹介に、自分の名前と顔写真を見つけた競馬関係者から、次々と連絡が入ってくる。そのほとんどが、「なぜに小倉まで行くの?」という内容であったが、むしろ、こっちがなぜかを聞きたいわ!という気持ちが本心であったが、その他には、「札幌記念はどうするの?」との質問も受けた。

 コロナ禍に入るまでは、学生時代も含めて、毎年のように足を運んでいた札幌記念であるが、この2年は札幌競馬場に立ち入ることができないでいた。

 それもあって、2歳時には札幌2歳S、そして3歳時には札幌記念を制したソダシの真っ白な神々しい馬体を、一度も拝めたことは無かった。

 だが、ビギナーズセミナーが再開した今年からは、講師として競馬場への入場が可能となっていた。

 あとは、札幌記念の日にシフトを入れてもらうだけだったのだが、賢明なる競馬関係者の皆様ならお分かりのように、北九州記念は札幌記念と同日開催。つまり、「日曜日に小倉競馬場にいる=今年もソダシに会えない」ことが確定していたのだ。

 そのソダシの真っ白な馬体を思い返しながら空港内を歩き回っていたところ、それとは正反対と言える、真っ赤な明太子を発売する売店が目に入ってくる。その時に改めて自分は博多に、そして九州に再上陸した事実を感じ取った。

 このコラムでも第104回から106回まで書かせていただいたが、グリーンチャンネルで放映中の「馬産地通信」のロケで、九州地区の馬産地を巡ったことがある。

 それはJRA北海道シリーズ函館開催の真っ只中でもあり、できることなら小倉競馬場にも行ければとは思いながらも、函館競馬場でビギナーズセミナーの講師が入っており、それは叶わなかった。

 そもそも、小倉競馬場は競馬ライターとなってからは来るのが不可能な場所だと思っていた。小倉の夏開催はJRA北海道シリーズと日程が丸被りであり、しかも、その頃はせり市といった馬産地のイベントも多いので、スケジュール調整が非常に難しい。

 そして冬開催の時期は、北海道の天候が悪く、場合によっては飛行機が飛ばない可能性を考えると、二の足を踏まざるを得なかった。

 札幌記念を犠牲にするという、まさかのやり方で、小倉競馬場入りを果たせたのは何とも言えない思いもあった。それも代理店や小倉競馬場の方々といった、周りの方が動いてくれたおかげだと思い返し、ソダシの白い馬体を、明太子の赤い魚卵へと切り替えた。

 福岡空港から地下鉄に乗りかえ博多駅へ。そして新幹線で小倉駅へと向かう。ホテルに荷物を入れると、タクシーを呼び止めて、「九州メディアドームまで!」と告げた。九州最大級の全天候型多目的施設である九州メディアドーム。その施設内にあるのが、競輪発祥の地としても知られる、小倉競輪場だった。
(次号に続く)
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